「アヴォーシカ」。聞き慣れない言葉だが、ロシア語で「もしかしたら」という意味だという。旧ソ連時代には人々の持ち歩く「袋」を指した。共産党政権下の物不足が深刻で、もしかして何かを売っていれば、チャンスを逃さず買って入れる。そのための袋である。それで「もしか袋」とも呼ばれた。
1980年代の初めにロシアの旧帝都サンクトペテルブルク(当時はレニングラード)を訪ねた時、この「もしか袋」の存在を知った。宮殿広場などの観光地では見掛けなかったが、商店のある裏道に入ると、しばしば目にした。
行列があれば、とにかく並ぶ。売っている品があれば、袋に詰め込めるだけ買う。いやはや、大阪のおばちゃんも顔負けの風景だった。
それから40年、よもや日本人が袋を持ち歩くとは思いもしなかった。それは「レジ袋」。サラリーマンも時にカバンに仕舞い、時にポケットに押し込んでいる。レジ袋の節約で海洋プラスチックごみの汚染を防ぐ意味もあろうが、何と言っても生活防衛。買い物のたびに3~5円のレジ袋を買っていては財布に響く。
おまけに食品の値上げラッシュが続く。3月には菓子類やポン酢などの調味料、缶詰など3000品目を超えるという。
気流子が目にした「もしか袋」はブレジネフ・ソ連共産党書記長のアフガニスタン軍事侵略の直後だったが、プーチン露大統領のウクライナ軍事侵略はその風景を世界に広げている。生活の敵と言うほかない。