涙の男とクールな女 ベトナムから

陸路で中国からベトナムに入った時、なぜか今でも忘れない光景がある。国境の町モンカイからハノイに向かう長距離バス停で見たものだ。バスの後部座席には1人の若い女性が乗っていた。窓の外には恋人と思われる青年が力なくたたずんでいる。

よくある別れの光景だが、違っていたのは涙の流し手だった。涙を流しているのは男性の方だった。しかも、相手の女性は滂沱(ぼうだ)の涙男をクールに眺めているだけ。いかにも女の目線は男にはなく、これから過ごす大都会ハノイに向いている。

思わず太田裕美の歌「木綿のハンカチーフ」を思い出した。

田舎を出る恋人に「都会の絵の具に染まらないで帰ってね」と歌い、「俺のスーツ姿を見てくれ」と胸を張る恋人に「いいえ、私は草に寝転ぶあなたが好き」と返す。恋は破局を迎え、最後に恋人にねだったのが別れを意味する「ハンカチ」だったが、それがシルクではなく、田舎を暗喩する木綿製というのが、この歌のすごみだ。

モンカイのバス停で見た光景は、この逆バージョンだったが、ベトナム女性のたくましさは近藤紘一著「サイゴンから来た妻と娘」に詳細に書かれている。サイゴン特派員だった近藤は、ベトナム人妻が作った可愛いペットのウサギ料理に度肝を抜かれたり、稼いだ金でパリにマンションを買われたりと散々な目に遭遇している。国境の町で見た女々しい男とたくましい女が、その後どうなったのか今でも気になる。(T)

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