トップコラム【上昇気流】(2022年12月28日)

【上昇気流】(2022年12月28日)

北条義時(Wikipediaより)

今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は内容充実だった。鎌倉時代は戦国時代と並ぶ日本史上の「戦」の時代だ。その中の最重要人物が北条義時だ。太宰治著『右大臣実朝』(1943年)も、彼の人物像を描き出している。

和田義盛が将軍実朝に自分の身内に対する減刑を嘆願した際、これを拒絶する義時について「相州(義時)さまは平気でそのいやな役を引受けて、(略)ちっともいやな顔をなさらぬ」と記す。

世の中には「進んで悪を行う人間」がいる。歴史上の権力者の大方はそのタイプだ。彼らは、自身の行動が「悪」であると認識した上でこれを実行する。

その後和田氏は滅亡するが、義時としては嘆願の機会を捉えて和田氏を挑発する挙に出たのだろう。今の日本の政治体制では難しいが、800年前の日本ではこうした行動は普通だった。今の世界にもその種の権力者はたくさんいる。

半面、義時は「世の中をあれこれ動かしては見るが、そのあげくこれが私のものだというかたちあるものは何ひとつ手の中に残らない」(山崎正和著『実朝出帆(しゅっぱん)』/73年)と姉北条政子に告白するような一面もあったようだ。

権力者の功績が形として残らないのは当然だが、そのことに不安を覚える義時の一面には、一定の説得力がある。「かたち」はともかく、北条義時という名前は残った。大河ドラマは虚構にすぎないが、人間のありようについて真実の一端に触れた作品であることは確かだ。

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