慌ただしかった1年が過ぎようとしている。この1年、何を築いてきたのか、改めて自らを振り返ってみると、はなはだ心もとない。「汝自身を知れ」というギリシャの格言がある。デルポイのアポロン神殿の入り口に刻まれた言葉という。
この格言は、普段の自身の習慣・道徳・気質を自覚する、といったようなことを指している、あるいは、自分の無知を悟る、というのが一般的な解釈だろう。
ところで神殿の入り口に刻まれていた本来の意味は「入り口前までは人間世界だが、この入り口を通った先は神域である」という警告であり、神殿に入るにあたっての心構えを説いた言葉である。
そこで、この格言には神秘主義的な解釈がなされることがある。古代において「知る」というのは、現代でもそうであるように性的な結合を意味することがある。神秘的な解釈では「神と人との結合」、いわば霊的結婚による本来の自我の目覚め、ということになろう。
このことを深く追求した1人が、16世紀スペインの聖テレジアで、『霊魂の城』という書物を著した。神秘神学の第一の書といわれるが、その中で、霊魂を七つの部屋からなる水晶やダイヤモンドの城にたとえて、どのようにして最奥にある神との一致の部屋にたどりつくかに言及している。
キリストは「あなたがたは神の宮である」と説いた。われわれは外的な建物はもとより、内的な建物を確かに築くことにも思いをはせたいと思う。
(荘)