エジプトでの国連気候変動枠組み条約の締約国会議が閉幕すると、カタールでサッカーのワールドカップが開幕した。いずれも砂漠の国である。それで導かれるように「ギルガメシュ叙事詩」が心に浮かんだ。
メソポタミア文明を築いたシュメール人が粘土板に楔(くさび)形文字で残した物語である。ギルガメシュは紀元前3000年紀前半に実在したウルクの王。粘土板はイラク北部のニネベをはじめ、メソポタミア各地の遺跡から出土しており、広く語り継がれてきた。
その中にレバノン杉の森の神フンババを殺害する話が出てくる。それが原因で親友を亡くし、不死を求めるギルガメシュに女神の化身がこう囁(ささや)く。「自分の腹を満たすがよい。昼夜、あなた自身を喜ばせよ。日毎、喜びの宴を繰り広げよ。昼夜、踊って楽しむがよい」。
自然を征服して日常生活の快楽にふける。それを理想としたのがこの文明だったようだ。環境考古学者の安田喜憲さんは、フンババ殺害に象徴される森の破壊によってメソポタミア文明は崩壊したと指摘している(『森と文明』日本放送出版協会)。それで砂漠に変わり果てたか。
21世紀にはどんな叙事詩が相応(ふさわ)しいだろうか。安田さんは「近代文明とはまったく異なった幸福の価値観、欲望の性質や社会経済体制を持った新たな文明の創造」を説いている。
伝統的な森の文化や信仰を培ってきた日本にそのヒントがあるかもしれない。サムライブルーの活躍でふと思った。