【上昇気流】(2022年11月18日)

柿の木

近所の家の柿の木のたわわに実った実がすっかり色づいてきた。稔(みの)りの秋のフィナーレを告げているようだ。紅葉もいいが、柿の朱色は日本人の生活に根差した秋色である。

<柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺>。正岡子規が明治28年、奈良を旅した際に作った有名な句である。「法隆寺の茶店に憩(いこ)ひて」の前書きがある。食いしん坊だった子規は、果物とくに柿が好物だった。「くだもの」という随筆に、この時、東大寺近くの旅館で丼鉢(どんぶりばち)に山のように盛った柿を食べ満足したことを書いている。

この句については、同じ随筆で次のように書いている。「柿などというものは従来詩人にも歌よみにも見放されておるもので、ことに奈良に柿を配合するというような事は思いもよらなかった事である。余はこの新しい配合を見つけ出して非常に嬉しかった」。

柿一つを俳句に詠(うた)うにも、子規たちによる俳句の革新があった。ことほど左様に、柿は日本人にとっては身近で卑近な果物だったということでもある。

あまりに身近で、その素晴らしさが見落とされてきた面もある。梨やリンゴなど日本の果物は海外でも評判だが、柿の上品な甘さは他の果物に勝るものがあるのではないか。海外でもその美味(おい)しさが認められ、輸出はシンガポールやタイを中心に年々伸びている。

新潟県産の柿をコンテナ船内で渋抜きしながらシンガポールに輸出する実験も始まっている。柿の海外展開の前途はその色のように明るい。

spot_img