東京ではまだ、昼間20度を超える暖かい日が続いている。しかし、朝夕になると10度前後まで冷え込むことが多い。
先日、深夜に最寄りの電鉄駅から出ると、キッチンカーのクレープ屋があって、男女2人連れの客と話しながらクレープを焼いていた。外気が肌寒いので、温かそうだなと思ってのぞくと、T字になった木製のトンボをくるりと回して、本当に薄く丸くクレープ生地を広げていた。
いつも何気なく見ている風景ではあるが、寒さの中で小麦粉の生地が薄く丸く広げられていく様子を見て、ふと子供の頃の記憶がよみがえった。
小学校に通う前のことだ。当時は、クレープなどというハイカラな食べ物はなく、いつも楽しみに待っていたのは、年配のおじさんが屋台を引いて売りに来る季節ごとの食べ物だった。夏は砂糖入りのきな粉が掛かった冷たいわらび餅、冬はたこ焼きやお好み焼きを売っていて、経木(きょうぎ=薄い木の板)の舟皿に入れてくれた。
その屋台のお好み焼きは、薄い生地の上にかつお節の粉やキャベツ、カマボコの切れ端を少し載せただけで、ソースを塗って三つ折りにしたものだった。しかも生地はトンボのようなもので本当に薄く丸く広げていた。こちらの方は時々、新聞かわら半紙のようなものに包んでくれたりもしていた。
今思うと、本当にクレープみたいな売り方をしていたようだ。本格的なお好み焼き屋に通い始めたのは中学生になってから。いつの間にか、そのおじさんの屋台は来なくなっていた。
それでも屋台が来る時に聞こえる鈴の音や、弟と2人で母親にねだってお金をもらった時のうれしさ、そしてお好み焼きを焼く様子の面白さ、それを食べた時のおいしさ…。それらの感覚は今も鮮やかに残っている。
故郷の思い出は何度味わっても心地よい。そんな思い出を子供たちにも残してあげられたのか、ふと考えてしまう。
(武)