
石川県金沢市の兼六園側に「金城霊沢(きんじょうれいたく)」と呼ばれる泉がある。「金沢」の地名の由来となった場所と伝えられており、毎年7月の氷室開きには、この水でお茶を点(た)てて神前に供え、その後、お茶会で振る舞われる。それほどきれいな清水だ。
神事だけでなく、この水は文化財の保存修復にも使われている。すなわち「寒糊(かんのり)炊き」で、修復に欠かせない糊はこの水で精製している。
作業は「文化財保存修復工房」で行われる。工房は兼六園に隣接する石川県立美術館の広坂別館にある。
糊を造る工程はハイビジョン映像で紹介され、原材料は小麦粉と水。大寒の時期に屋外のテント張りの下で準備される。濾(こ)しながら釜に入れ、かき混ぜて火にかけると少しずつ糊が出来てくる。炊き上がった糊を甕(かめ)に移し、保管する。映像には年毎(ごと)の古甕が並んでいる。
数日後、フタを開くと、表面は黴(かび)で覆われている。それを丁寧に取り除き、色、固さ、匂いなどを記録し、その上から同じ水を張る。毎年水替えしながら、7~10年寝かせて、初めて使用できるという。
こうして数年かけてでき上がった糊が、掛け軸や巻紙の裏打ちに使われている。修復作業は掛け軸と古文書の二つに大別され、「剥落(はくらく)止め」「総裏打ち」「虫損のつくろい」など七つの項目が映し出されている。
こうした地道な作業が繰り返され、大切な文化財が修復されていることが良く分かる。
(仁)