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J・S・バッハの傑作「平均律クラヴィーア曲集」の題名は、原語では「よく整えられたクラヴィーア」。翻訳に平均律という調律用語が充てられたが、題名の由来は別のところにあったらしい。
「音楽は神の秩序に従ってよく整えられていなければならない」という、バッハの同時代の音楽理論家A・ヴェルクマイスターの言葉から借用されたという。各曲、各調性ごとにそれぞれの発するメッセージがあった。
東京・渋谷区の音楽スタジオ「アトリエムジカ」で、ピアニスト大井美佳さんのミニコンサートが開かれた。ロマン派の音楽家たちを取り上げた演奏会だったが、最初に演奏されたのはバッハのこの曲集から。
そのうちの一つが「前奏曲とフーガ ヘ短調 BWV881」で、バッハが用いたヘ短調には痛々しい感じがあり、十字架の痛みなどの表現に用いられたという。調性に関する彼の考えはその後も継承される。
その典型例として演奏してくれた曲の一つが、F・ショパンの「マズルカ へ短調 作品68の4」。メランコリックな作風で、人生の最後に横たわったまま書いたという絶筆。大井さんはそこに彼の祈りを聴く。
バッハは神による世界の秩序を提示したが、ショパンの曲は自分の祈りを表現し、そこにロマン派の特徴があるという。古典派は理性を重んじたが、ロマン派の時代には個人の感性が重要視される。大井さんはバッハにもロマン派にも西洋の祈りを読み取る。