
台風などによる水災害への対策で、政府は「流域治水」を強調するようになった。堤防の設置や川底をさらって土砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)工事のほか、災害リスクの低い地域への居住の誘導などを進めるという。
先月、列島を襲った台風14、15号を見ると、直前の対策が十全で、住民避難なども円滑に行われた地域は被害が最小限に抑えられた。その一方、15号で静岡県の太田川水系の堤防が決壊したように、河川流域の氾濫は相変わらず多く、被害も大きかった。
「被害の大半が水害・土砂災害などの危険性が予め示されていたところで発生している」(国土交通省の令和3年の報告書「水害・土砂災害に関する防災用語の改善について」)という近年の認識を裏付ける台風でもあった。
狭い国土のわが国は豪雨の際、土砂や石を巻き込んだ鉄砲水が市中の川に流れ込んだりした。洪水を防ぐため、川の水を一刻も早く海に流すのが最善策で、堤防造りと川筋を直線的にする工事が、戦後営々と進められてきた。
ところが今日、異常気象の影響や森林整備の不具合、また人々の居住空間が街の川筋周辺に広がるなどの変化により、水被害の様相がなかなか掴(つか)めなくなってきた。「流域治水」が今日の防災策のポイントであるゆえんだ。
願いたいのは防水能力の高い森林の整備だ。「山と里との断絶の解消を目指せ」という表現を使う専門家もいる。こういった形で、新しい“列島改造”が進むことを期待したい。