日本一の古書店街、東京・神保町は、作家など文筆家や学者がよく利用する。また自分の蔵書を整理する時、買い取ってもらったりしている。古本を漁(あさ)っていると、署名の入った献呈本に出合うことがしばしばある。
時には作家や学者が亡くなって、その蔵書を遺族が大量に処分したらしいのに出くわす時もある。ある時、有名店の店頭の廉価本コーナーに、中の扉が切り取られた古書が大量に積まれていたことがあった。帯の推薦の言葉から想像すると、少し前に亡くなったある高名な作家に献呈された本らしい。
その作家の名誉のために名前は書かないが、遺族が蔵書を処分した際、贈られた作家の名前と献呈辞、著者の署名の書かれた扉部分を切り取ったものと思われる。献呈者への気遣いもあってのことだろう。しかし愛書家から、酷(ひど)いことをすると思われてもしょうがない。
献呈本の場合、贈った側と贈られた側が分かり、その交友関係を偲(しの)ぶよすがともなる。作家や学者同士の交流など、なるほどと思うものから、意外な親交が分かることもある。
既に物故したある芥川賞作家の古書を買ったら、交友のあったらしい女性心理学者への献呈辞と自身の近況を記したはがきが挟まっていたこともある。これは大変な儲(もう)けものだった。
古本漁りには、こんなオマケもある。しかし、本の間にお札が挟まっていたという経験は残念ながらない。神保町の神田古本まつりは、今月28日から1週間開かれる。