昔、韓国のある地方大学に通った知人女性からこんな体験談を聞いた。女性は在学中、羽振りのいい義理の叔母から、教職員試験の受験資格を得られる学部への転入を盛んに勧められた。理由を聞くと「受験資格さえあれば、あとは私がソウルでもどこでもあんたが好きな場所で学校の教師にさせてあげるから」。叔母の父親は元教育部長官。仮に試験の結果が悪くても、コネで教職にねじ込んであげるという誘いだった。
女性が大学に通った1980年代は、大企業をはじめ安定した職場に採用される新卒女性がまだ少なかった時代だ。女性は叔母の誘いに乗ろうとしたが、転部には少なくない学費がさらに必要なことが分かった。結局、それを工面できず諦めたという。専業主婦だとばかり思っていた叔母も実は元教師で、結婚・出産を機に退職していたことを後に知った。女性は「今から思えば、叔母も父親のコネで教師になったのかもね」と語っていた。
自分の力ではできないことでも、地位や権力がある父親のコネで実現可能になることを韓国では近年「アッパ(=パパ)・チャンス」と呼ぶようになった。特に政治家などの子供が裏口入学の手段とするケースが後を断たず、政治不信につながっている。知人女性に今の心境を尋ねると、筆者の予想を覆し、「正々堂々と自分の力で生きてきたのを誇りに思うわ」とは言わず、意味深長な笑みを浮かべるだけだった。(U)