Homeコラム【上昇気流】(2022年8月29日)

【上昇気流】(2022年8月29日)

三遊亭金翁さん

現役で芸歴最長の落語家だった三遊亭金翁さんが93歳で亡くなった。昨年11月には川柳川柳さんが90歳で亡くなった。お二人とも晩年まで高座に上がって笑いを取っていたので、急に寂しくなった。

金馬時代が長く、一昨年、次男の三遊亭金時さんに五代目金馬を襲名させた。金馬と言えば、あの真ん丸で愛嬌(あいきょう)のある顔と親しみやすいしゃがれ声が浮かぶ。気流子も数年前までよく東京・新宿末広亭に足を運んだ。

「権兵衛狸」を何度か聞き面白かった。田舎に一人住まいをする権兵衛宅の雨戸を叩(たた)く音。翌日もトントン、「ご~んべ~」と呼ぶ声、実は狸だった。権兵衛は計って、これを巧みに捕らえ村の者に披露するという他愛(たわい)ない話だが、狸の人への愛着、権兵衛の鷹揚(おうよう)さの対比が見事。「ご~んべ~」の語りが、時にぞっとするほど恐ろしく感じられた。しゃべりの妙、その深さだ。

年配の方は1966年まで約10年間続いたNHKテレビのバラエティー番組「お笑い三人組」が忘れられないはず。金翁さんは講談師の一龍斎貞鳳さんらと出演し国民的人気を集めた。

毎週火曜日の夜8時半から30分。白黒テレビが全国に普及した頃で、茶の間に家族が集まってじっと見ながら時に大笑いした。家族団欒(だんらん)にテレビが欠かせなかった。

昭和、平成、令和。まさに時は流れ世は移ったが、芸は死なずということだ。国立演芸場の開設にも尽力し、落語協会顧問や日本演芸家連合会長なども務めた。

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