トップコラム【上昇気流】(2022年8月22日)

【上昇気流】(2022年8月22日)

乳がんの自己触診

このほど73歳で亡くなった医学博士の近藤誠氏は1980年代半ば、乳がんに対する「温存療法」を積極的に進めて「乳ガンは切らずに治る」という論文で知られた。当時の学界では、乳がんも含めがんは切除がいわば常識だったが、真っ向から異議を唱え、切らない治療を実践した。。

当時、取材で訪ねた近藤氏の研究室は、古い木造の建物の端っこにあり、氏が迎えてくれなければ見つけ出せないような小さく狭苦しい所だった。「白い巨塔」の中で不遇をかこっていたが、後に乳房温存療法は広く認められ「常識」となった。

その後、がんには「本物のがん」と手術しなくてもよいがん(氏は「がんもどき」と言う)があるとして、がん治療法の選択を正しく行うよう広く訴え、96年の「患者よ、がんと闘うな」などがベストセラーになった。

2011年の東日本大震災後に放射線治療の専門家だった氏を職場の慶応病院に訪ね見解を聞いた。「原発事故後の日本人の被曝(ひばく)に対する不安やパニックは、今日の医療への対し方と比較すると決してバランスの取れた判断とは言えない」ときっぱり。

「放射線を用いる医学検査は日常茶飯事で、しかもこれまでそのリスクについて社会的にほとんど知られていなかった」として、一般の人たちに「正確な情報を得る努力を」と注文を付けた。

退職後は、東京・渋谷にセカンドオピニオン外来を開いた。学究と臨床現場を行き来し多忙を極めた姿が思い浮かぶ。

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