
東京都写真美術館で「メメント・モリと写真」展が開かれている(9月25日まで)。メメント・モリとはラテン語で「死を想(おも)え」の意味。この言葉は中世末期の西欧で、骸骨が人間と踊る「死の舞踏」のイメージと結び付き、芸術の題材となった。
写真展では、死と向き合ってきた人々を主題にした名品150点を展示。ウジェーヌ・アジェ、W・ユージン・スミス、セバスチャン・サルガドら18人で、死を孤独、ユーモア、幸福などの概念と組み合わせている。
衝撃的だったのは、序章にあるハンス・ホルバイン(子)の木版画『死の像』(1523~26、国立西洋美術館所蔵)だ。簡単に実物を見ることができる作品ではない。連作で楽園でのアダムとエバから始まる。
二人が堕落した時から骸骨は付きまとい、金持ちから金貨を奪っていく骸骨、司教の手を引く骸骨、踊るカップルの脇で太鼓をたたく骸骨、嫁入りする娘に取りつく骸骨。生活のあらゆる場面が登場する。
歴史学者の木間瀬精三は、ルネサンス文化を論じた『死の舞踏』(中公新書)で、J・ブルクハルトが描いた理想郷としてのルネサンス像を否定し、死の恐怖と殺戮(さつりく)の世界だったという「美しい幻想」として示した。
写真展は過去のペストの流行と現代のコロナ・パンデミックとの対比で企画されたが、木間瀬もまた、現代を異常な時代、狂った時代と位置付けた。物質文明が精神文化をのみ込んだ時代だからだ。