国連科学委員会の前議長ギリアン・ハース氏が来日していたことを小紙20日付で初めて知った。東京都内の日本記者クラブで会見し、東京電力福島第1原発事故による放射線被曝(ひばく)について「直接影響した健康被害はない」との見解を改めて示したという。
記者クラブの会見なのに報じたのは小紙と読売ぐらいのもの。他メディアはほとんど取り上げていない。「これだから福島をめぐる風評被害はなくならない」と情けなくなった。
同委の正式名は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」。1986年のチェルノブイリ原発事故では被曝の影響で子供の甲状腺がんが増えたと結論付けた。
2011年からは27カ国の科学者が約2000本の論文・データを基に福島原発事故による放射線の影響を検証。昨年3月に「健康被害はない」とする20年版報告書を発表した。当時、議長だったハース氏は朝日の取材に「報告書が、福島の人たちの安心につながることを強く願う」と語っていた(同10日付)。残念なことに、その時のメディアの扱いも地味だった。
環境省の意識調査(今年6月発表)では「被曝(ひばく)が子孫に影響する」との誤った回答が全国で約4割に上った。福島県では約8割が「影響の可能性は低い」と答えている。これは県挙げての科学的啓蒙(けいもう)の成果だろう。
ハース氏は福島県も訪れ、報告書について説明している。風評被害を減らす絶好の機会を政府もメディアも逃さないでほしい。