記録的な速さで梅雨が明けた。故郷のある東北南部では、6月の梅雨明けは初めてのことだ。筆者の子供時代、暑さが続くのは7月末からお盆までの2週間余りと短かったが、今年は3カ月間続く長い夏になりそうだ。暑さに弱い東北人としては「体にこたえるな」と憂鬱(ゆううつ)になっていたところに、うれしいニュースが故郷から伝わってきた。
宮城県東松島市に住む知り合いに、所用があって電話した。すると、「野蒜(のびる)海水浴場が12年ぶりに海開きするので、ゴミ拾いに行ってきた」と弾んだ声が聞こえてきた。6月25日に行われたゴミ拾いには住民や近くの航空自衛隊松島基地の自衛官ら350人近くが参加したという。
日本三景・松島近くにある野蒜海岸は3㌔にもわたって緩やかな弧を描く美しい海岸線を誇る。JR仙石線野蒜駅から歩いて15分ほどの場所にある海水浴場は広々とし、東日本大震災前、夏には5万人近くの海水浴客で賑(にぎ)わった。しかし、津波で甚大な被害を受け、2011年から休止を余儀なくされていた。
防潮堤の整備だけでなく、ビーチスポーツ用区画も新設され、生まれ変わった姿で今月20日のオープンにこぎ着けたことに、地元の人たちの喜びもひとしおだろう。実は、筆者にとっても野蒜は思い出深い海水浴場だ。小学1年の時、生まれて初めて見た海が野蒜だった。もちろん海水浴も初体験だった。
筆者の故郷は山間部。短い夏休みのハイライトは、母親と一緒に参加する“親子バス”だった。その行き先が野蒜海水浴場だった。
2年生の夏休み、筆者はいたずらをしていて右足を切った。普通なら、医者に行って何針か縫うほどの傷だったが、親にはそれを隠し通した。言えば、楽しみにしていた親子バスに参加できなくなると思ったからだ。傷が塩水に浸(つ)かった時の痛さの思い出と共に、その傷跡は今も右足に残っている。
(森)