映画「男はつらいよ」で、寅さんが旅先から東京・柴又の「とらや」に電話をかける場合、旅館か公衆電話からのことが多い。公衆電話であれば、今はなくなった赤電話かピンク電話である。
長距離通話だから話は手短に済ませるが、時々小銭が足りず途中で切れてしまうことがある。「切れちまった」と言って、おもむろに例のトランクを手に駅の改札に向かったりする。一人旅の侘(わび)しさが滲(にじ)む瞬間だ。
当時、まだ携帯電話は一般に普及していなかった。だが寅さんが携帯で頻繁にとらやに電話するのを見れば、ちょっと興ざめだろう。なかなか連絡できないから余計思いが募るという長閑(のどか)さが昔はあった。
しかし、今は携帯をほとんど体の一部のように使う時代となった。宅配便なども携帯が業務に欠かせない。携帯で在宅の患者と頻繁に連絡を行っている医療機関もあり、命綱のようになっている。
2日未明から発生し、いまだに完全復旧していないKDDIの大規模通信障害は、そのことを如実に示した。契約者の一人である気流子の携帯の音声通話が復旧したのは昨日の午後に入ってからだ。幸いその必要はなかったが、外で寅さんが愛用した公衆電話を探そうとすれば一苦労だったろう。
他社でも、同じような通信障害は起きている。今回のような場合、会社同士が回線を融通し合えるような制度をつくってほしい。重要な社会インフラを担う業界としての義務だと思う。