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「すごく楽しい42㌔でした」――。2000年のシドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子選手が語った言葉である。その後、好成績を残した日本選手が「楽しんだ」と言うのをよく聞くようになった。
しかし一世を風靡(ふうび)したこの言葉は、真意や背景についてよく知られないまま、ただ「かっこいい」と受け止められたきらいがある。
高橋選手は五輪直前、米コロラド州で高地トレーニングを行い、平日は40㌔、土曜は80㌔近く走った。「それまでの練習があまりにもつらかったので、オリンピック本番も本当に楽と思っていました」と女性週刊誌のインタビューで語っている。そんな苦しい日々があったのだ。
国立青少年教育振興機構が行った日本、米国、中国、韓国の4カ国高校生の意識調査で「将来のことを悩むより今を楽しみたい」と答えたのは日本が一番多かった。一方、将来に不安を感じている割合も日本がトップだった。将来の展望がないので今を楽しもうという刹那(せつな)主義が広がっていないか心配だ。
「スポ根」マンガも流行(はや)らなくなり、世の中全体、努力・忍耐を強調してきた昭和の「ガンバリズム」は古いという風潮になった。「今を楽しむ」傾向が強いのは、前の世代の頑張り過ぎへの反動もあるだろう。
ただ、昭和世代のおかげで今の日本があることを忘れたくない。そして本当の「楽しさ」は努力の後に来ることを、高橋選手の言葉から思い起こしたい。