米国の首都ワシントンに「共産主義犠牲者博物館」がオープンした(小紙12日付)。共産主義の残酷さを伝えるためのもので、非営利組織「共産主義犠牲者追悼財団」の運営。
同財団によると、旧ソ連など共産主義政権によって殺された犠牲者は1億人以上に達する。今なお15億人が中国や北朝鮮、キューバなどの圧政下で暮らしている。
ソ連の犠牲者だけではなく、中国における1989年の天安門事件や新疆ウイグル自治区の元収容者に関する展示もあり、範囲は世界的な規模のようだ。犠牲者の追悼と、共産主義に抵抗する人々の希望の灯火とするのが目的。
背景には若い世代の抵抗感の希薄化があり、彼らへの教育も兼ねている。実はソ連崩壊後のロシアでも、共産主義の犠牲者を調査して施設や資料も保存しようという動きがあった。
メドベージェフ政権当時、博物館建造の意見書が出され、取り組む姿勢を見せたが、却下される。スイス在住のジャーナリスト、サーシャ・バッチャーニ氏が『月下の犯罪』(講談社)で伝えている。
92年にはゴルバチョフ元ソ連大統領の首席顧問を務めたアレクサンドル・ヤコブレフ氏の著書『マルクス主義の崩壊』(邦訳、サイマル出版会)が刊行され、「荒れ狂うわが国の歴史のかなたに、悪の根源を見極める」作業がなされた。共産主義の誤謬(ごびゅう)を抉(えぐ)り出した名著だ。ロシアにこうした動きがかつてあり、その水脈のあることを忘れてはいけない。