【上昇気流】(2022年6月7日)

足漕ぎボート『マーメイド号』 サントリーミュージアムにて(Wikipediaより)

「僕自身は青春真っただ中なんです」――。83歳で世界最高齢のヨット単独無寄港太平洋横断を成し遂げた堀江謙一さんの言葉だ。69日間の航海の間、使った薬は「目薬とばんそうこうだけ」というのにも驚く。

昭和37年、23歳で日本人として初めて小型ヨットによる単独無寄港太平洋横断を成し遂げた。当初は「密出国」が問題にされたが、入港したサンフランシスコのクリストファー市長は「コロンブスもパスポートは省略した」と名誉市民として受け入れ、国内での評価もがらりと変わった。

60代以上の人であれば、当時の熱を帯びた報道ぶりを記憶しているだろう。航海の様子を綴(つづ)った手記『太平洋ひとりぼっち』はベストセラーになり、石原裕次郎主演で映画化された。堀江青年の快挙は若者の冒険心を掻(か)き立てた。

その後も、日本人初のヨット単独無寄港世界一周などの記録を残している。今回は60年前と逆のコースを制覇した。

78歳の時はこんなことを語っている。「世界中の海をヨットで航海できたのは、戦後70年以上、日本が平和だったからだ。日本が平和だったのは、“平和憲法”を堅持したからではなく、命をかけて日本を守ってくれた自衛隊がいたからだと思っている」(月刊「WiLL」平成28年11月号「『太平洋ひとりぼっち』で考えたこと―自衛隊に名誉を与える憲法にしてくれ」)。

大海原でひとりぼっちを何度も経験したヨットマンの言葉には、特別な実感がこもっている。

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