「ソ連から帰ってくると、さっそく僕は、減量にとりかかりました。ようやく『その気』になったのかもしれません。ソ連の『スポーツマスター』どもに、そんな体でよく登れるものだ、と変なところで感心された」。
登山家の高田直樹さんが著書『なんで山登るねん』(河出文庫)で書いている。高田さんは、北杜夫の小説『白きたおやかな峰』で登山隊員のモデルになった一人。1965年、中央アジアにあるカラコルムのディラン峰が舞台だ。
その後71年、旧ソ連のコーカサス山群の峰々を登り、日本とは全く違ったタイプの登山家、スポーツマスターの存在を知ってショックを受けたという。彼らのことを気流子が知ったのは学生時代、国立登山研修所でのこと。
講師の一人が、スポーツマスターでなければ高度な登山は許可されないといい、そのトレーニング方法と資格について語った。「そんな体で」と言われたのは、体重83㌔ではスポーツマスターにはなれないらしい。
この制度はロシアでも引き継がれ、登山は自由に行えないのだ。ところで、ウクライナの女性登山家がエベレストの登頂に成功した(小紙5月20日付)。
頂上で「ウクライナと共に」と書かれた国旗を掲げ、「私たちは世界中からの助けを必要としている」と述べた。女性のエベレスト登山は珍しくなくなったが、ウクライナが自由の国であることを実感させた。祖国が戦場となる中、痛切な思いがあったことだろう。