
「一冊を最後まで通読しなくてもいい」――。千葉雅也著『現代思想入門』(講談社現代新書/近刊)の中の言葉だ。その根底には「読書は全て不完全」という考え方がある。読書に関する完全主義とは違った発想だ。
40年ぐらい前の読書法は「原典を読め」だった。語学の関係があるから、翻訳で読むのは仕方がないが、とにかく原典に当たれということが言われた。全巻を通読するのは自明の前提だった。
この本には「二項対立を読みとることが重要」との指摘がある。Aの系列とBの系列の対立がその著作にとってポイントになっていることが哲学書などでは多い。そこはしっかり押さえる必要があるのは当然だ。
固有名詞や豆知識のようなものは読み飛ばす。まずは読み進んで、気になれば後で調べるというのが千葉氏の読書法だ。
「格調高いレトリックに振り回されるな」との指摘もある。現代思想はフランスが中心だから、気取った文章も多い。日本語訳の場合でも、原文の格調は十分に反映されるので要注意。難解な文章の細部にこだわるのは時間のムダというのが、21世紀型の読書法だ。
文章に型があることも多い。お飾り目的の華麗な文章が多いのは「弁論術」の伝統のためだそうだ。フランスの歴史の中で形成されたものだから当然なのだが、「文章の綾」にこだわらずに「俗っぽく」読んでも一向に構わないとの助言を読むと、さほど身構える必要もなさそうに思えてくる。