【上昇気流】(2022年5月22日)

繭玉

「薄繭の出来ゆく音の微かにも」(木暮つとむ)。「繭」は、昆虫がサナギになる時の家のようなものだが、俳句の季語の場合、蚕の繭のことを指す。この繭から絹糸が取れることは昔から知られ、古事記や日本書紀の神話にも出てくる。

もともとは野生の虫だったが、長年人間によって飼われたために家畜化し、人間の手を離れては生きられないものになった。成虫の蛾(が)になっても羽で飛ぶことがそれほどできないとも。

幼虫は桑の葉を餌として育つため、養蚕農家では桑の木が畑に植えられていた。気流子の幼少時代、母方の実家を訪ねると、低い桑の木が畑に広がっていたことを思い出す。桑の木は剪定(せんてい)しなければ見上げるような巨木となった。

当時の農家には蚕の幼虫を育てる部屋があり、昼夜を問わず桑の葉をかむ音がにわか雨のような音を立てたので、慣れるまでなかなか眠れなかったほど。冒頭の俳句にあるように繭を作り始めると、音は小さくなったが、それでも数が多いので、かすかであってもうるさいことに変わりない。

桑の木は養蚕のために植えられたので、花や実をつけてもそれほど注目されない。が、その実は甘酸っぱい野性味があって夢中で食べたことを記憶している。

今では養蚕農家が少なくなったので、田舎でも桑畑を見掛けることがあまりなくなった。母方の実家でも養蚕は止(や)め、人が住む部屋よりも大きい蚕を育てた部屋も今は無く、思い出だけになっている。