【上昇気流】(2022年5月19日)

ボルシチ

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が実行され、世界の関心が向けられると、関係出版物も出されるようになった。政治や軍事だけでなく、両国の歴史や文化に関するものも登場。

ロシア文学者、沼野恭子さんの『ロシア文学の食卓』(ちくま文庫)はそんな一冊で、2009年にNHKブックスから出された本の復刊。ロシアの文学作品に描かれたたくさんの料理が紹介されている。

かつて1990年4月に旧ソ連の取材で、モスクワ、レニングラード(現サンクトペテルブルク)、キーウ(キエフ)と訪れたが、食べた料理で照合するものが多くないという印象。当時、人々の生活が貧しかったことも理由にある。

巨大なモスクワのホテルでは、毎日のように売店でヨーグルトとパンとキュウリを買って食べていた。現地メディアの記者が通訳を務めてくれたが、彼もレストランの予約を取るのが困難だったらしい。

レストランでも食べる機会はあったが、おいしかったと記憶するのは、神学大学の取材で振る舞われた昼食。学生たちが食べている料理で、発酵キャベツを使ったスープ、シチーが印象的だった。

沼野さんはこの本で、ドストエフスキーの『罪と罰』から引用し紹介している。取材先の教会で司祭が出してくれたサモワールのお茶も素晴らしかった。お茶の小道具サモワールは、沼野さんによれば、もう電気ポットの普及で使われなくなった。食卓の光景はその国を知るよい題材なのだ。