民主主義社会の底力 台湾から

5月8日は八田與一技師の命日だった。今年もダムのほとりに建てられた銅像の前で、頼清徳副総統が出席して慰霊祭が行われた。八田は台湾で最も知られる日本人といっても過言ではない人物で、日本統治時代に台湾南部の嘉南平野に烏山頭ダムを建設し、地元農民からは神のごとく祭られている。

だが、2017年4月に台湾と中国の統一を主張するグループのメンバーが、銅像の首を切断して持ち去るというショッキングな事件が発生したことがある。

また事件が起きたのは4月だった。八田の銅像に中国国旗がデザインされたマスクが着けられているのが発見されたのだ。ネット上には、マスクを着けた八田銅像とともに「日本人は出ていけ」、「台湾は中国の一部」などと主張する動画が投稿されているのが確認された。

ほどなくミニ政党である台湾人民共産党のメンバーが「社会秩序維持法違反」の罪で起訴された。ところが、判決は無罪だった。起訴された被告3人は銅像を損壊する行為をしておらず、また彼らの言動についても個人的な意見を発表しただけで、憲法に定められた言論の自由は保障されるべきというものだった。

彼らの主張は、今日の台湾社会では大部分の人が受け入れられないものだ。しかし、そのような主張もまた、民主主義社会の台湾では言論の自由として保障されている、とした判決に、民主主義の精神が着実に実現されている台湾の底力を見た思いだった。(H)