対独戦勝記念日の演説でロシアのプーチン大統領が、ウクライナでの「特別軍事作戦」を「戦争状態」と宣言するのではないかとの観測があった。しかし演説では、ウクライナ侵攻を正当化したものの、戦争宣言はなかった。
宣言することで、強いはずのロシア軍が「小ロシア」ウクライナを相手に苦戦していることが明らかとなり、反戦の声が高まることを恐れたのか。ハルキウ(ハリコフ)ではウクライナ軍が反攻に転じるような状況になっていても、あくまで特別軍事作戦と言い続けるしかないのだろう。
昭和12(1937)年7月7日の盧溝橋事件に端を発し、大戦終結まで続いた日中戦争は宣戦布告なき戦争と言われる。当時は「支那事変」と呼んだ。
しかし事変はずるずると拡大し、それがもとで日本は米英との戦争に追い込まれて敗北した。軍国日本がたどった歴史が、現在のロシアと重なってくる。
ロシア人にとってナチスドイツへの勝利は大きな誇りであり、その記念日は愛国心が最も高まる日である。プーチン氏は演説で、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と決め付けた。
しかし皮肉なことに、いまロシアがウクライナで行っている市民の虐殺、国内での言論弾圧や情報統制はナチズムの全体主義そのものである。対独戦勝の栄えある記念日をロシア自らが汚していることを、情報統制と愛国心で盲目となったロシア人は気付いていない。ロシアにとって大きな悲劇だ。