トップコラムフランス美術事情 「パイオニア 狂騒の20年代のパリの芸術家」展

フランス美術事情 「パイオニア 狂騒の20年代のパリの芸術家」展

隠れた女性芸術家たち 再評価

絵画・彫刻・写真・文学で表現

「リリ・エルブの肖像」ゲルダ・ヴィーグナー1922作Centre Pompidou

フランス元老院(セナ)が所有するパリのリュクサンブール美術館での展覧会には常に特別な意味がある。それは国家を意識したものだが、別にフランス人芸術家しか扱わないという意味ではない。事実、イタリア人のモディリアーニの大回顧展も同美術館は行った。

昨年春に同館で開催された「女性画家、1780年―1830年」展は、大革命前後の女性芸術家に光を当てたものだったが、今回は19世紀の終わりから20世紀の初めにかけての時代。「パイオニア 狂騒の20年代のパリの芸術家」展(7月10日まで)と題して開催中だ。

西洋美術史に決定的転換をもたらしたエコール・ド・パリの時代と重なり、フランスの芸術運動に寄与した女性たちが主役だ。フランスの美術界がこの数年、いかに芸術と女性の関係を丁寧に再考しているかを物語っている。時代は宗教や伝統的社会構造が新興ブルジョワジーによって変えられ、特に大都市は解放感に酔いしれた狂騒だった。

芸術界はヨーロッパやアメリカからも野心旺盛な若い才能ある芸術家が集まり、活気に満ちていた。女性の活躍の場も広がり、シュザンヌ・ヴァラドン、ゲルダ・ヴィーグナー、ソニア・ドロネー、タルシラ・ド・アマラル、シャナ・オルロフなどの先駆者たちは、パリの美術学校を通過し、芸術家として認められ、スタジオ、ギャラリー、出版社を所有した。

本展は、彼らが表現した絵画、彫刻、写真、文学作品などを通して、近代芸術運動の発展における女性の存在を検証する試みを行っている。

「新しい女性たちは、アーティストとして認められ、スタジオやギャラリー、出版社を持ち、美術学校でワークショップを開いた最初の存在となった」と展覧会資料にはある。フランスが美術学校で女性に門戸が開いたのは19世紀末から20世紀初頭。まだまだ男性中心社会の時代に、いつの時代もそうであるように芸術は先駆的存在だった。

宗教画、権力者の権威を示す芸術は近代市民社会の登場とともに大衆化が進み、結果的に大革命前後に活躍した女性画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランが切り開いた先に、野心を持つ女性クリエーターたちが続いた。彼女らは世紀末の狂騒の時代に登場し、20世紀以降の芸術の方向性に影響を与えたことを同展は強調している。

フランスで女性参政権が認められたのは1945年だったことを考えると、女性芸術家たちの登場が社会を変えるまでに40年の時を要している。今回、近代芸術史で女性の活躍に焦点を当てた展覧会を政府の中心機関の影響下にある美術館で開催するのも意味深い。同展に「パイオニア」というタイトルが付けられていることが、全てを物語っている。

(安部雅延)

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