知床遊覧船遭難事故を起こした運航会社「知床遊覧船」のずさんな安全管理の実態が次々と明らかになっている。事故当日、出航を決めたいきさつはその最たるもの。
現場海域では強風注意報や波浪注意報(波の高さが3㍍以上と予想される)が出されていたのに「海が荒れれば引き返す」という通常の運航条件の認識で船を出した。気象情報が全然生かされていないというか、無視されている。
会社は昨年5月に接触事故、同6月にも座礁事故を起こし行政指導を受けていてより慎重さを要したはずだが、この結果だ。「当事者意識、責任感の欠如」(斉藤鉄夫国土交通相)に尽きよう。
一方、その怠慢を半ば見過ごしてきた当局の責任も決して小さくない。法令で定められている通信手段の申請で、つい最近、会社側は衛星電話から携帯電話に変更した。しかし現場海域には携帯の電波が届かない「不感地帯」があるのに、当局はよく調べもせず変更を認めたのもその一つ。
情報の伝達と制御の円滑な相互作用で、生物の生存や自動機械の駆動が進むことを科学的に説いた理論に「サイバネティクス」がある。米数学者ノーバート・ウィーナーが提唱した。森羅万象に適用され、情報伝達と制御の現象は統一的に見られるという。
今回の事故では、この普遍的な原理が軽く捉えられ、たやすく破られた。人間だけが法則を免れると考えるのは傲慢(ごうまん)過ぎる。「一事が万事」と考えると、不安が募る。