【上昇気流】(2022年4月20日)

W・アイザックソン Wikipediaより

W・アイザックソン著『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(上下/文春文庫/近刊)を読むと、万能の天才のさまざまな興味深い一面がよく描かれていて面白い。例えば芸術のジャンルの優劣。芸術のジャンルは多様だが、「ジャンルなんかどうでもいい」ではなく、「絵画と彫刻を比べれば、絵画が勝っている」と言い切ったのがダビンチ(1519年没)だ。

彼がこんなことをノートに書き留めたのは、彫刻家ミケランジェロへの敵愾心(てきがいしん)のためだ。23歳年少のミケランジェロを念頭に置きながら、絵画は自然界の全てを受け入れることができるとダビンチは強調する。絵画は色も濃淡も表現できるが、彫刻では不可能だ。

加えて絵画は距離感も描くことができる。対象の背景にある山や谷を表現することも可能だ。「だから絵画は彫刻よりも上」というのが彼の持論だ。

対するミケランジェロは絵画も描いたが、「絵画よりも彫刻が好き」と自認する。ダビンチが創始したスフマート(ぼかし)の技術はミケランジェロにはなかった。

ミケランジェロ個人は別としても、絵画の方が彫刻に比べて豊かな表現が可能なジャンルだったとは言える。そこは「モナリザ」の作者の言う通りだ。

そのダビンチも、ミケランジェロとの壁画の競作では嫌気が差して放り出した。彼は温厚で人から好かれるタイプではあったが、仕事が遅く、しばしば放棄するクセは、67年の生涯を通じて変わらなかったようだ。

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