
母親の骨盤と胎児の肩幅は対応関係にあることが分かったと、京都大の森本直記准教授らのグループが学術誌「米国科学アカデミー紀要」に発表した。
出生が近づくと胎児の肩幅に直接関係する鎖骨の成長が減速し、出生後にそれを補うように加速する。成長した肩が産道に引っ掛かるリスクを緩和する人間特有のメカニズムとみられる。「今後さらに詳しく検証する必要があります」と京大ホームページで広報している。
狭い産道をくぐるために鎖骨の成長を遅らせる。それが自らの命を生かす方途だという知恵や意志がどこから出てくるのか。胎児自体がそれを認識しているのか。生命と意志の関係解明のために新しい知見が待たれる。
生物学では生命の属性を自己複製、エネルギー代謝、細胞構造の三つだとしているが、今日ではもっぱら細胞、核、DNAレベルの探究となっている。今回の発見のような人体レベルの生命の働きをどうみればいいのか。
量子力学を創始し、分子生物学の生みの親となったオーストリアの物理学者シュレーディンガーは、名著『生命とは何か』(邦訳・岩波文庫)で、生命について疑う余地のない事実として「意志的な心」を挙げている。
「(意志的な心は)私の体の運動の支配者であり」「生命にかかわる重大なものである場合には、その全責任を感ずると同時に実際全責任を負っている」と生命の本質を追究していた。森本准教授らの発見に注目するゆえんだ。