樹齢1000年を誇る福島県の三春滝桜は、国の天然記念物に指定されて今年で100年になる。今週前半は初夏を思わせる陽気で、一挙に満開になったというので訪ねた。
JR郡山駅から車で向かうと、なだらかな山並みが続き、小高い丘に登ったかと思えば、緩やかな下り坂になり、そしてまた登る。その道沿いの集落には至る所に桜が咲き、滝桜と見まがうベニシダレザクラが濃いピンクの花を枝に流していた。
三春の地名は梅、桜、桃の花が一時に咲くことに由来する。それだけでなく、芽吹いたばかりの若葉が淡いパステルカラーを山肌に描き、時折レンギョウの鮮やかな黄色が目に入る。三春は見事な里山だった。
滝桜の挿し木から育てた子孫木が数多くあるという。近隣、郡山市の「紅枝垂地蔵桜(べにしだれじぞうざくら)」は樹齢400年の娘桜、二本松市の「合戦場のしだれ桜」は樹齢200年の孫桜。いずれも祖先から引き継ぎ、大切に育て守ってきた。
都会では桜花の今だけを見がちだが、ここでは桜だけでなく里山全体の過去と未来も愛(め)でている。「木を見て森を見ない」。そんな桜鑑賞であってはならないと自省した。
平安末期の歌人、西行は「願はくは 花の下にて 春死なむ その如月(きさらぎ)の 望月(もちづき)のころ」と桜を題材に歌っている。その花は散りゆく物悲しさでなく、新たな生への希求のように思えてくる。夜、100年記念でライトアップされた滝桜は望月(満月)に照らされているようだった。