コロナ下での晴れの門出

電車の車内

 「新型コロナ対策のため、車内での会話は控えてください」――毎朝利用する地下鉄(東京)で、いつもの車内アナウンスが流れる中、笑い声を上げながら長話する若者4人がいた。筆者から少し離れていたので、内容は聞き取れなかったが、その弾んだ声から彼らの高揚感が伝わってきた。

 周囲には、会話する乗客は一人もいない。蔓延(まんえん)防止等重点措置が解除されて、リバウンドが懸念されているのに、「マナー違反では」との思いが浮かんだが、すぐ「きょうは4月1日か」と考え直した。若者たちはみんなスーツにネクタイ姿。社会人としての晴れの門出なのだろ う。

 そう気付くと、不思議なもので、“不謹慎”と感じた若者たちの弾んだ声が、喜びとエネルギーに満ちあふれ、心地よく聞こえてきた。対面の入社式は3年ぶりという企業が多い。あんな嬉(うれ)しそうな若者の姿を見たのは久しぶりだった。

 筆者の次女も1日から社会人。さっそく2週間余りの研修に入っている。思い起こせば、学生生活の後半はコロナ禍で計画が大きく狂った。3年を終了した一昨年2月、専攻する英語を鍛えるため、1年休学。ワーキングホリデー制度を使って“留学”するため、ニュージーランドに飛んだ。

 ところが、到着後、1週間もしないうちに、同国はロックダウン。日本に飛ぶ最後の便で帰国の途に。その便を逃せば、いつ日本に戻れるか分からない。しかも、予定していた仕事はキャンセルになってしまい、部屋に閉じこもるしかなかった。

 今年の社会人1年生は学生生活後半、多かれ少なかれコロナ禍に翻弄(ほんろう)された。成人式も卒業旅行も自粛でできなかった人も少なくない。短大生に至っては入学から卒業まで、我慢のキャンパス生活を強いられた。それを思うと、電車内の長話に目くじらを立てるより、「頑張れよ」と声を掛けたくなった。

(森)

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