【上昇気流】
「中空にとまらんとする落花かな」(中村汀女)。メールが当たり前になったせいか、ハガキや手紙などの冒頭に書く時候のあいさつを抜かして本文から始めるようになった。今の季節ならば「桜花爛漫の候」「花冷えの日が続いておりますが」などがある。 何ごとにも、昔は手続き、順序があった。時候のあいさつというのも、書き出しに悩んだ時には便利だ。だが、今ではその言葉がインターネットや辞書などを調べなければ分からなくなっている。それだけ季節感と懸け離れた生活をしているからだろう。 メールで簡単に済ませてしまう風潮もある。特にここ数年、新型コロナウイルス禍で巣ごもり生活ばかりだったので、季節感を感じることが少なくなったことも大きい。部屋でテレビやパソコンに向かう生活が多くなっている。 とはいえ、桜の季節ばかりは格別。心が弾むのも仕方がない。東京近郊は満開で花の見ごろだが、今週中には盛りを終え散り始めるという。テレビでも花見の様子が紹介されているが、コロナもあって宴会ムードは低調なようだ。 鎌倉時代の明恵上人に、手紙を無人島に向かって書いたという話がある。弟子がどこに届ければいいのか聞くと、そのまま島に置いてくればいいと言ったとか。 普通に桜を見られる機会はいつになるのだろうか。それだけ桜にまつわる思い出が次々に浮かんでくるのである。きょうは明恵上人に倣い、桜に「お帰りなさい」とでも言ってみたい。 |