【上昇気流】(2022年3月28日)

川端康成(画像:Wikipediaより)

今年で没後50年となるノーベル文学賞作家の川端康成が、20代初めに初恋の女性との思い出を描いた短編小説「篝火(かがりび)」の基になったとみられる下書きが残されていたことが分かった。

「篝火」は岐阜を舞台に川端の求婚、破局を描いた作品で、以後も同様のテーマが見られる。近現代日本文学の頂点に立つ作家・川端の若き日を伝える貴重な資料だ。

手元に川端著「級長の探偵」という少年少女向け短編の復刻本がある。事故で盲目になった清一は、母親に心配をかけないよう気丈に振る舞う。一方、クラスメートで級長の文雄は清一を気遣い学習を手伝うが、その間、学校の実験室で器材が壊される。文雄は清一が犯人と疑わざるを得ないが……。

家庭(親孝行)、障害者、友情がテーマ。世情慌ただしい昭和12年の作だが、静謐(せいひつ)な自然の中に人生の一コマを描いて「掌の小説」を得意とする川端の繊細な感覚がうかがえる。

米国の人気小説家、ドナルド・E・ウエストレイクは、短編こそ「人生の断面」を描くツールであり「(作家の)金銭的な報酬がとくに大きいわけでもない」が「その命脈を保たせているのはきっと、愛、つまりこの仕事に対する書き手の愛であるに違いない」と書いている。

わが国では文芸誌上で短編が精彩を放っていたが、出版不況が続き媒体も減っている。味のある作品を堪能したい。先の「篝火」の下書きは4月に公開される。昭和の大作家をしのぶよすがになれば。

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