露のウクライナ侵攻“聖戦化”の恐れ

戦いにプーチン氏聖書引用
キリル1世 露正教から分裂批判

ロシアのプーチン大統領は18日、モスクワのルジニキ競技場で行われたウクライナのクリミア半島併合8年目の記念イベントで講演し、現在、ロシア兵が多く死傷しているウクライナへの軍事侵攻を「軍事作戦」と呼び、新約聖書を引用して戦死者を称えた。また、ロシア正教会の最高指導者モスクワ総主教キリル1世は、西側の反露感情を非難しプーチン氏を擁護するなど宗教対立による“聖戦”化が危惧される。
(ウィーン・小川 敏)

8日、モスクワの競技場で、ウクライナ南部クリミア半島併合8年を祝い演説するロシアのプーチン大統領(AFP時事)
8日、モスクワの競技場で、ウクライナ南部クリミア半島併合8年を祝い演説するロシアのプーチン大統領(AFP時事)

プーチン氏はルジニキ競技場で、「軍事作戦はウクライナ内の親ロシア系住民をジェノサイド(集団虐殺)から解放するためだ」と説明し、新約聖書「ヨハネによる福音書」第15章13節から、「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」という聖句を引用したという。バチカンニュースは、「プーチン氏が聖書を引用する時」という見出しで大きく報道していた。

露軍がウクライナに侵攻し、無差別攻撃で多くの民間人、女性、子供たちを殺害させ、ルジニキ競技場で記念イベントのあった18日には極超音速ミサイル「キンジャール」をウクライナ西部に投下するなど、激しい攻撃をしている。

そのさなか、あたかも野外ミサをする伝道師のようにプーチン氏は、「愛の福音書」と呼ばれる「ヨハネによる福音書」を引用したのだ。プーチン氏は5歳の時、洗礼を受けたれっきとしたロシア正教徒だ。プーチン氏の視点からは露軍戦死者は「聖戦の犠牲者」を意味する。

一方、停戦へキリスト教の影響力を期待する動きもあった。ジュネーブに本部を置く世界教会協議会(WCC)は2日、ロシア正教会の最高指導者モスクワ総主教キリル1世にプーチン氏がウクライナ侵攻を止(や)めるように調停を要請した。キリル1世とプーチン氏は深い繋(つな)がりがある。

WCCは10日、イオアン・サウカ事務局長代理が報告する形でキリル1世からの返答内容を公表した。これによるとキリル1世は、「ロシアとウクライナの人々は共通の信念、聖人と祈りによって団結し、共通の歴史的運命を共有している」と説明。

その上で、①北大西洋条約機構(NATO)は過去、東方拡大でロシアに安全保障上の危機感を与えてきた、②ウクライナ正教会のモスクワ正教会からの離脱とその教会分裂を公認したコンスタンチノープルのバルソロメオス総主教にも今回の戦争の部分的責任がある、と主張。「ロシアを弱体化させることを目的とした大規模な地政学的戦略の一部だ。西側は反ロシア感情を広めている」と非難している。

ロシアとウクライナ両国の主要宗派は正教会だ。ロシア正教会下にあったウクライナ正教会はソ連解体後、3分割されたが、コンスタンチノープル総主教庁はキエフ総主教下のウクライナ正教会の独立を2018年10月に認めた。

それを受け、キエフ総主教所属の正教会は同年12月15日、独立正教会と統合し、「ウクライナ正教会」を創設。ウクライナにはこの「ウクライナ正教会」と、ロシア正教のモスクワ総主教庁と関係を維持する「ウクライナ正教会」が存在する。この分裂が、ウクライナ侵攻の引き金になったとキリル1世が示唆したことは注目される。

インスブルック大学宗教社会学のクリスティナ・シュトケル教授はオーストリア日刊紙「スタンダード」(3月11日付)の中で、「(正教徒の)プーチン氏は大統領3期目に入ってからはキリスト教価値観の保護者を自負し、ロシア正教会を民族のアイデンティティーを守る拠点と受け取ってきた」と指摘している。

プーチン氏は2月24日、戦争宣言の中で、「ウクライナでのロシア系正教徒への宗教迫害を終わらせ、西側の世俗的価値観から守る」と述べている。

だが、プーチン氏はロシア軍にウクライナ国内の原子力発電所を攻撃させ、「北大西洋条約機構(NATO)軍のウクライナ介入は世界3次大戦を意味する」と威嚇し、欧米諸国を恐れさせている。ウクライナの1人の婦人は、「プーチンはアンチキリストだ」と呼んでいた。

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