「IT先端都市」で活性化へー石川県加賀市

ほとんどの地方都市で若者が転出し、人口減少が続いている。自治体は出産祝い金や保育料・医療費の無料化、また関係人口・交流人口の拡大を促すが、コロナ禍で人出は増えるどころか減少している。

こうした中、石川県加賀市は、抜本的な市の活性策として、デジタル人材育成と先進テクノロジーの導入という二つの柱を成長戦略に据えた「IT先端都市・加賀市」創出に取り組む。加賀市の挑戦を取材した。
(青島孝志)

生き残り懸けた挑戦
エストニアの行政電子化 手本に

加賀市で開催された「ロボレーブ」(加賀市提供)
加賀市で開催された「ロボレーブ」(加賀市提供)

福井県との県境に位置する石川県加賀市。最盛期には、年間400万人の観光客でにぎわいを見せた加賀温泉郷や、360年以上の伝統ある九谷焼と山中漆器でも知られる同市の人口は、昭和60年代に8万人だったが、現在は約6万4千人。2040年には4万人になると予測され、いわゆる「人口消滅可能性都市」(全国1799自治体のうちの890自治体)の一つに数えられている。

現在3期目となる宮元陸市長は、子育て支援や企業誘致などという次元の対策では抜本的な解決策にはならないと判断。「IT先端都市・加賀市」創出で、市の活性化を目指すと決断した。

宮元市長には、一つの理想とするモデル国家がある。北欧のエストニアだ。市長自ら19年11月、現地を視察している。小島健志・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部副編集長のリポートによれば、行政手続きの99%が電子化された国で、「電子政府やIT先進国というイメージの確立に成功し、海外の優秀なデジタル人材を引き付け、新しい国の在り方を提示している」という。具体的には、引っ越しの際の、自治体への住所変更届け出、電力会社やガス会社、通信会社、金融機関などさまざまな関係先に変更の通知が「オンラインで住所を変更するだけで、基本的な公的機関の手続きはすべて終わる」というのだ。

子供の誕生に伴う出生届け、健康保険の加入、乳幼児医療費助成、児童手当、出産育児一時金申請などを、病院側が行い、親はそうした煩雑な手続きをする必要はない。政府が国民に渡すデジタルIDが、官民のデータベースとつながっており、便利で快適、迅速なサービス提供が実現。小島氏によれば、そのサービスの数は2700以上という。

加賀市もまた、こうしたIT先進都市づくりを行い、質の高い行政サービスを住民に提供していく考えだ。しかし、同市に特別な技術があるわけでも、デジタル分野に精通した人材が既に存在するわけではない。

そこで市は、①先端テクノロジーの導入②人材の育成――を成長戦略の2本柱と定めて、IoT(注1)など最先端の技術を活用できる人材で、市内企業の生産性や技術開発力の強化を目指す考えだ。そのベースとなるのが、マイナンバーカード。これがあれば、①各種行政手続のオンライン申請②本人確認の身分証明③金融機関とのやりとり④コンビニなどで各種証明書の取得ができる。

「昨年末現在、住民の80・6%が申請しており、72・0%が交付済みです。昨年は加賀市が全国の市の中で交付率トップでしたが、今年に入って宮崎県都城市がトップですね」

加賀市政策戦略部スマートシティ課の企画調整チームリーダーの細野幸司氏は、少し悔しそうな口調で語った。しかし、加賀市ではすでに172種類の電子申請サービスがスマホから提供できるまでになった。

加賀市スマートシティ課の細野幸司リーダー
加賀市スマートシティ課の細野幸司リーダー

市役所まで足を運ぶことがなく、待ち時間もなく受けられるサービスは、コロナ禍における「新しい生活様式」にも適応している、と市民にPR。

こうした環境整備と並行しながら、イノベーション関連企業との連携協定・宣言をこの4年間で26件結び、着々とデジタル都市の「基礎工事」をしているのだ。

成長戦略のもう一つの柱、人材育成にも力を入れている。01年にアメリカで生まれたロボット教育プログラム「ロボレーブ」は、コンピューターを使ったロボット動作のプログラミング学習などを通して、子供の科学とものづくりへの興味・関心を高め、創造力や柔軟な思考力を育むことを目的としている。現在20カ国以上に広がり、日本では加賀市で15年から毎年11月に国際大会が開催されてきた。

スマートシティ課が入るビルには18年4月、加賀市イノベーションセンターがオープン。関連企業に無償オフィスを貸し出している。また、10代なら誰でも参加できる「コンピュータクラブハウス加賀」は、マサチューセッツ工科大学の協力を得て、優れた才能発掘をサポート。さらに、近い将来立ち上げる「デジタルカレッジ加賀」は、世界に通用するデジタル分野のエキスパートの育成、市内企業のデジタル化推進の使命を担う。

今、加賀市は実用化に向けた前段階の実証化作業に着手しつつある。それが、①引っ越し手続きのワンストップ化実現に向けて関連企業11社との協議②MaaSを活用した快適な移動サービスの開発③ドローンを活用して医薬品の配送、災害状況の情報収集実験――などだ。

農業分野では、具体的な成果が見えてきている。それが、IoTの技術により、石川県が開発した最高級ぶどう「ルビーロマン」の商品化率向上だ。

ルビーロマンは厳しい品質基準が定められており、商品化率の低さが課題だった。しかし、IoT技術で、気象や生育環境の「見える化」に乗り出し、経験と勘に頼らないデータを基にした栽培管理を開始。そのおかげで加賀市内の商品化率は県平均を大きく上回る70%以上にまで向上。金沢中央卸売市場の初競りで一房140万円(史上最高)の値を付け、関係者を喜ばせたのである。

細野氏は、「市が行っている実証事業の段階から、企業や農業がビジネスモデルとして活用してもらえる段階になれば、市民の理解も期待もさらに高まるはず」と話す。加賀市の大いなる挑戦が、消滅都市からの脱却の見事なる成功例になるか、注視していきたい。


《注1》「Internet of Things」の略。従来インターネットに接続されていなかったさまざまなモノ(センサー機器、駆動装置〈アクチュエーター〉、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など)が、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組み。
【メモ】IT先進国家・エストニアは過去に2度、領土を占領された苦い歴史を持つ。それゆえ、もし領土を失ったとしても、国家を再生できるように国民のデータを集めるために電子政府を推し進めたという。一つの都市が消えれば、そこで育まれた歴史、文化、伝統芸能なども消えてしまう。故郷の先人たちの軌跡を守ろうとする加賀市にエールを送りたい。

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