【上昇気流】(2022年1月20日)

モスクワ

「ゴーゴリはウクライナ語もできたのに、結局はロシア語で書くことに落ち着くわけで、やはりウクライナ語よりロシア語のほうが優れているというか、文学的で、文学作品に適しているんでしょうね」。

ロシア文学者の奈倉有里さんが、ロシア国立ゴーリキー文学大学に在学していた最終学年の2008年、文学史の教授から聞いたという言葉だ。根拠も学術性も皆無の、あり得ない発言に驚いたという。

ウクライナとロシア間の不穏な溝を感じさせた出来事で、このような発言を許す風潮が社会に高まっていたことを実感していた。大学に入学したのは04年8月のことだが、言論の画一化が進んでいたとも語る。

大学では、ロシア史についての講義の科目名が「ロシア史」から「祖国史」に変更。幻滅を感じたのは奈倉さんばかりか、ウクライナやベラルーシから来ていた学生たちもそうだった。

これらは奈倉さんの留学体験記『夕暮れに夜明けの歌を』(イースト・プレス)に記されている体験談だ。その後14年、ロシアはロシア系住民の保護を理由に軍を送ってウクライナ南部クリミア半島を併合。

さらに今、ロシアはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止のため、10万人規模の軍隊をウクライナとの国境付近に派遣している。2国間でウクライナ生まれのゴーゴリをめぐっても奪い合いが行われているが、どちらかの国に属する作家と定めることはできないと奈倉さんは主張する。

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