農村体験教育旅行で地域活性化

「道央地域 教育旅行受入推進セミナー」北海道長沼町

宿泊・暮らし体験は生徒たちの思い出に

教育旅行で農業体験する生徒たち(北海道農政部提供)

全国の中高校生を対象に、北海道の農村で体験活動を通して、その地域の魅力を知ってもらう教育旅行が近年、注目を集めている。新型コロナウイルスによる感染拡大の規制解除を契機に農村ツーリズムの一環として位置付けられている教育旅行。その受け入れ体制を充実させたい北海道はこのほど、空知管内・長沼町で「道央地域教育旅行受入推進セミナー」を開催した。
(札幌支局・湯朝肇)

「ツーリズム」に期待集まる

「長沼町は農村ツーリズムに先駆けて取り組んでいただいた地域。農家の担い手・後継者不足の中、都市と農村の交流を通して農村の魅力を知ってもらうことは農村地域の活性化に不可欠。地域ぐるみの教育旅行受け入れの体制づくりを促進させていきたい」――こう語るのは、北海道農政部農村設計課の伊原陽一課長補佐。ちなみに教育旅行とは、修学旅行や林間学校など宿泊が伴う教育を目的とした旅行のこと。一日だけの校外学習とは区別される。

6月20日、空知管内の長沼町で開かれた「道央地域教育旅行受入推進セミナー」で主催者を代表してあいさつした伊原氏は「北海道に修学旅行で来道する学校のほとんどが都市部の普通学校の生徒たち。民泊しながら行う農業体験は楽しい思い出の一つとなっていきます。そうした農村ツーリズムの一環として行われる教育旅行は農村地域の“関係人口”の増加にもつながります。今回のセミナーで発表される事例を参考にして教育旅行受け入れに積極的に取り組んでほしい」と参加した各自治体の関係者に訴えた。

この日のセミナーには農協や農業者、自治体関係者らが会場とオンラインで237人参加。事例報告者は、長沼町産業振興課グリーンツーリズム推進室室長の酒井智也氏、道央地域での教育旅行に関して広くコーディネート事業を展開するアグリテック代表取締役の中田浩康氏、教育旅行の生徒たちを実際に受け入れてきた長沼町グリーン・ツーリズム運営協議会会長の黒田泰明氏、深川市内で活動する元気村・夢の農村塾塾長の村上はるみ氏の4人が講演した。この中で酒井氏は、長沼町が道内外から教育旅行を受け入れてきた経緯について解説。「長沼町は札幌から東に車で1時間ほどの所にあり、新千歳空港も近くアクセスに便利。石狩平野に広がる田園都市で風光明媚(めいび)な場所。北海道で栽培される農産物のほとんどの品目が栽培されており、教育旅行のニーズに応えられると考えています」と説明。平成16年に町や農協が中心となってグリーン・ツーリズム推進協議会を立ち上げ、その翌年2月には受け入れ農家としてグリーン・ツーリズム運営協議会がスタートしている。「運営協議会立ち上げ時の受け入れ農家の会員数は112戸で、その年は1校154人の生徒を受け入れました。ピークは平成22年で会員数は211戸に増え、25校4566人受け入れることができました。その後、新型コロナウイルスの感染拡大や受け入れ農家の高齢化によって会員数が減少し、現在は106戸。昨年は9校280人の受け入れにとどまっています。新型コロナウイルスによる規制が解除された今、町ぐるみの取り組みで教育旅行受け入れの組織づくりを進めていきたい」と語る。

一方、教育旅行を実施する学校や旅行会社や受け入れる農家との橋渡しを行うアグリテックの中田氏は「北海道では年間におよそ1万2000人の子供たちが農山漁村を訪れ、宿泊しながら暮らしを体験しています。一方、修学旅行生の農家民泊や民宿の要望数は2万2000人。つまり現状ではニーズの45%を受け入れできていない状況になっている。農山魚村の活性化という視点からも受け入れ農家の拡大や地域の協力体制づくりが急務となっています」と指摘。

さらに「近年は都市部の旅行会社が手配を行う『発地型』から、地域自らが主導で提案し、教育旅行を受け入れる『着地型』に変わってきている。地域の宝ともいえる自然や資源を地元から発信していく流れになっています」と教育旅行のコンテンツ作りの重要性を語る。

また、深川市で活動する村上さんは「生徒さんを受け入れる場合、食物アレルギーを持っている生徒さんや雨が降った時の対応、さらには受け入れ農家さんの食事レシピの提案など、さまざまな情報交流を進めていますが、“地域が楽しくなる”ことがポイント」とこれまでの取り組みを紹介した。

人口減少が進む地方において都市との交流を進め、地域と多様な形で関わる関係人口を増やすことは、地方を活性化させる重要な手掛かりとなる。そうした視点から教育旅行を積極的に受け入れる農村ツーリズムに期待が集まっている。

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