食材の味、空気の匂い、鳥の鳴き声…… 豊かな農村の魅力を再発見

北海道石狩市 札幌の学生が「農村ツーリズム」体験

「農村ツーリズム現地講座」で田植えを経験する学生たち

農山漁村の豊かな自然や食、さらには歴史や文化など地域資源を前面に押し出して地域ぐるみで観光客を受け入れる「農村ツーリズム」が脚光を浴びる。北海道では都市部の学生が農村を訪れ、実際に農作業などを体験し、それを基に学生が自ら農村の魅力を発信する「農村ツーリズム現地講座」を開催している。そんな道の取り組みを取材した。(札幌支局・湯朝肇)

都市部からポスターで発信

地方活性化に連携不可欠

「田んぼに入った時は冷たかったけど、苗を植えると田んぼの底は温かく感じるね」――6月1日、札幌市の隣町、石狩市郊外の農家で開催された「農村ツーリズム現地講座」で田植えを体験した女子学生の一人がこう話した。この日は札幌市内にある札幌大谷大学芸術学部グラフィック・イラスト専攻の学生20人がバスに乗り込んで農業体験を実施した。

午前中は稲作を大規模に行っている株式会社増田農園を訪れ田植えを体験、お昼は地元で取れた野菜や魚介類を使っての食事を堪能した。午後は同農園からバスで5分ほど移動し、築100年の古民家をリフォームした宿泊施設「Solii(ソリー)」を訪問した。まさに、「農作業を体験して、その地域の『食』を味わい、古民家で『宿泊』」といった地域の魅力に触れ、農村ならではの“感動”を再発見しようという体験学習の場が催された。

午前中の田植え体験では増田農園の増田崇紘さんが水田農業に関わり始めてから現在に至るまでの歩みを語り、現在の稲作を取り巻く環境について以下のように話した。

「僕は25歳で農業に携わり17年間コメ作りに専念し、44ヘクタールほど耕作するようになった。今ではトマトのハウス栽培を20棟ほど行っている。おいしいコメを皆さんに提供していきたいという思いでこれまでやってきた。冬場には近くのゴルフ場などでスノーモービルを運転して楽しんでいる。学生さんにはとにかく、夢を持って進んでいってほしい。そうした中で農業の魅力も知ってほしい」

地元の食材を使って振る舞われたお弁当

1時間半以上の農作業の後は、昼食の時間。そこでは石狩市の道の駅「あいろーど厚田」にも特産品を提供している飲食店「おかずの駅『ほっ』」の店主である立浪ゆかりさんが地元の食材をふんだんに使って作ったお弁当をいただく。「石狩は海の幸と山の幸が豊富な所。山に入れば山菜も採れるし、朝は港で毎日市場が開かれる。新鮮な食材だからこそ、おいしい“食”を味わうことができる」(立浪さん)と話す。

一方、午後に訪れた古民家の宿泊施設では、そこを管理運営する北海道古民家再生協会の江崎幹夫理事長がまず古民家について説明。「現在の建築基準法(昭和25年施行)以前の伝統的な工法で建てられた木造建築のこと」についてと前置きし「輸入材ではない日本の丈夫な木材を使い、くぎなどをほとんど使っていないことから、ぬくもりがあり環境的にも優れている」と江崎氏は古民家の魅力を話す。

この日の現地講座に参加した学生からは「鳥がさえずる鳴き声、空気に漂う匂いなどの農村独特の魅力を伝え、ポスターを見た人が、すぐにでも農泊地域に足を運んで農泊体験したくなるような心躍るデザインを作成したい」との感想が上がった。

この「農村ツーリズム現地講座」をスタートさせたのは平成30(2018)年のこと。その前年に「農村ツーリズム」に向けたロゴマーク「農たび・北海道」を作成するに当たって道と札幌大谷大学芸術学部グラフィック・イラスト専攻と連携。その後、都市部の人々へ「農村ツーリズム」の魅力を発信するため同大学との連携を深めてきた。

「農村ツーリズム現地講座」はその一環としての事業であった。「都市部で学ぶ学生が実際に農村を訪問し、農作業などを通じて地域への理解を深め、その体験を基に学生がポスター制作を行い、それをもって都市部へ農村の魅力を発信していきたいというのがこの講座の狙いです」(道農村振興局農村設計課)と語る。

人口減少など地方が抱える課題は山積しているが、地方には自然や文化など多くの資源が存在しているのも事実。農村と都市部が連携することは地方の活性化に不可欠で、その中で都市の若者が果たす役割が極めて大きいことを「農村ツーリズム現地講座」は教えてくれる。

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