近年、若者の読書離れが懸念される中、もっと子供たちに読書の楽しさを知ってもらうため、千葉県教育委員会は11日、「千葉県子ども読書の集い」を千葉市のショッピングセンター内で開催した。歌も交えた子供向けの絵本読み聞かせイベントや絵本専門士を招いての講演会も実施された。本を読む魅力について大人も子供も体験・学習できる場となった。(石井孝秀)
子供のペースで親は邪魔せず
千葉県教育委員会では毎年5月、こどもの読書週間(4月23日~5月12日)に合わせて「子ども読書の集い」を開催している。子供たちの読書意欲の向上だけでなく、学校や家庭、地域において、読書の意義や重要性について理解を深めることも狙いの一つだ。
イベント内では、視覚障害を抱えた人でも楽しめる点字絵本など、さまざまな本も紹介された。県教委以外の団体も企画展示を行っており、NPO法人「ChanceFor All」は、子供たちの心の動きに合わせて本を分類する「感情図書館ミニhidamari」で参加。友達とどう接すべきか悩む時や世界についてもっと知りたい時など、「いろんな子供たちの抱えた思いに寄り添って、読む本を薦めている」(スタッフ)という。
昨年10月、ベネッセコーポレーションが東京大学との共同調査の結果から、子供たちの読書に関するデータを発表した。それによると、小学1年から高校3年の約半数の子供たちは、平日の読書時間が0分だった。一方で、同じ親子を7年間追跡したところ、幼少期の読み聞かせや早期の読書習慣の形成がその後の読書行動に大きく影響していることが判明したという。老若男女を問わず、読書活動の魅力を伝えられる機会に行政が取り組むのは重要なことだ。
小さな子供も家族で参加できる企画として、絵本作家のふくだのぞみさんが自身の描いた絵本「どっちどっちほいくえん」(こぐま社)などを読む「おはなし会」が開かれた。1回30分のイベントが2回行われ、休日のショッピングを楽しんでいた多くの家族連れが参加し、就学前の乳幼児たちを含め130人以上が絵本の世界を楽しんだ。
「どっちどっちほいくえん」は不思議な保育園を舞台に、夢とユーモアに溢(あふ)れた二つの選択肢を、「どっちがいい?」と問い掛けながら選んでいくストーリー。ふくださんがピアノの生演奏(丸木美花さん)に合わせ、「『お宝が埋まっているお砂場』と『ジャングルみたいなジャングルジム』のどっちにする?」と呼び掛けると、会場の子供たちは「お宝!」などと叫びながら、「どっちがいい」かを指さしていた。
絵本の合間には「おんまはみんな」などの童謡を楽しく歌う場面もあり、子供たちが歌に合わせて踊りだすと、親は子供たちの愛らしい姿を楽しい思い出に残そうと、スマートフォンを取り出して撮影していた。3歳の娘と一緒に参加した父親は、会場で販売されていた「どっちどっちほいくえん」を購入し、「楽しかった。また来たい」とうれしそうに話した。
同じ会場では、「心をはぐくむ読み聞かせ」をテーマに、日本テレビ元アナウンサーで、絵本専門士という経歴の杉上佐智枝さんが講演を行い、「絵本の何が一番いいのかと聞かれたら、私は絶対に想像力と答える」と強調した。
絵本専門士とは、不読率(1カ月に1冊も本を読まない児童生徒の割合)を下げることを目的に、子供たちが小さい頃から絵本に触れる機会を増やすため、文部科学省が始めた資格という。
杉上さんは絵本専門士の最初の講座で、「動画やアニメが飛行機なら、絵本は徒歩」という言葉が一番印象に残ったと話し、「絵本は眺めたいページをずっと眺めたり、もう一度最初に戻ったりと寄り道ができる。寄り道が人生を豊かにし、無駄なことはない」と語った。
絵本を読む上で心掛けている点としては、①言葉を足さず②先回りせず③否定しない――という3原則を紹介。難しい単語が出てくると、大人はつい解説しがちになるが、「子供は伸び伸びと絵本の世界に没頭しようとしているのに、それをすると集中が切れてしまう。私も自分の子供に『ママ、うるさい』と言われて、ハッとしたこともあった」と自身の体験談も交えつつ、読み聞かせの際はあえて教育的な観点は捨てるようアドバイスした。
さらに読み聞かせは「ぬくもりと共にあるメディア」であり、子供たちとの大事な“コミュニケーション”であると指摘。「だからこそ、読み方のうまい下手は関係ない。膝の上に子供を座らせ、やりとりしながら愛情を確認できる」と、読み聞かせの良さを訴えた。