北海道を知ってもらうイベントが札幌市内にある札幌市アイヌ文化交流センター(略称・サッポロピリカコタン)で開かれた。この日は、こどもの日とあって多くの親子連れが参加した。
(札幌支局・湯朝肇)
狩猟や舞踊体験で親しむ
「イランカラプテとは、アイヌ語で『こんにちは』といいますが、本当の意味は『あなたの心に触れさせてください』という意味があります。きょうは、参加した皆さんと心と心がつながることができればとてもうれしいです」――こう語るのは、司会を務めたアイヌの伝統芸能を継承する坂本ゆかさん。5月5日に札幌市内のアイヌ文化交流センターで開かれた「アイヌ文化体験イベント~シンチチュプ~」のあいさつで「イランカラプテ」と語り、その言葉の意味を語った。ちなみに、シンチチュプとはアイヌ語で「これから暖かくなる」という意味。シンチとは春が深まる時期の暖かさ、チュプとは日や月の光を表し、5月に使われる言葉である。
この日のイベントは午前(10時半から)と午後(13時15分から)の2回にわたって行われた。子供を対象にしたアイヌ文様の切り絵体験や屋外でのウコカリプチュイ(投げ輪遊び)の他、クワリ(仕掛け罠〈わな〉)、アイヌ古式舞踊の体験・鑑賞といった出し物が続いた。
この中でクワリとはクマやシカを捕る時に使った罠のこと。獣の通り道に紐(ひも)などの張り糸を仕掛けておき、動物がその張り糸に引っ掛かると、自動的にトリカブト(植物性の猛毒)が塗られた弓矢が突き刺さって獲物を捕らえるという仕掛けだ。
イベントに参加した子供たちが、大きなクマの模型を引っ張ると、クマが紐に引っ掛かり弓矢がクマに当たることを確かめた。クワリは「アマッポ」とも呼ばれ、同様の仕掛けはサハリンの先住民ニブフ族や沿海州からアムール川流域に居住するナナイ族などで広く使われていたという。
アイヌ古式舞踊では伝統楽器のトンコリやムックリの実演、さらに4人の女性による「鶴の舞(サロルンチンカップリムセ)」などの古式舞踊が披露された。この中でトンコリはアイヌ民族の中でも樺太アイヌや旭川以北のアイヌで広がった五つの弦から成る楽器。旭川市出身の坂本さんはトンコリについて、「よく見ると人の形、特に子供の姿を表しています。上が頭で弦の端を巻き付けているところが首、そして胴体というようになっていきます。弦は、以前はクジラの筋やイラクサの繊維をねじり合わせて用いたといわれています」と説明する。
また、古式舞踊については、「アイヌの踊りには動物のしぐさをまねた踊りが多くあります。鶴の舞もその一つで親鶴が子鶴に舞い方を教える踊りです。私も母からよくこの踊りを教えられました」と語る。
この日は、参加者が全員で古式舞踊を体験した後、最後に鮭(さけ)やジャガイモ、ニンジンなどが入ったアイヌ料理「オハウ(汁物)」が提供され、イベントに参加した40人ほどがアイヌ民族に伝わる伝統料理を堪能した。札幌市東区から参加した小学校3年生の竹内玲海さんは「両親と一緒に来て、切り絵やアイヌの踊りができたのは良かった。また来たい」と,うれしそうに話していた。
札幌市アイヌ文化交流センターはアイヌ民族の伝統文化の幅広い理解と普及を目的に2003年に開館した。館内にはアイヌ民族に伝わる民具や衣服など300点以上が並ぶコーナーも設けられている。
また、屋外にはアイヌの人々が住んでいたチセ(家)や丸木舟が展示され、月毎に体験イベントを開催。「昔に比べるとアイヌ文化やアイヌ語に興味を持ってくれる人が多くなりました。より深い理解と交流ができるようになれば、うれしい」と坂本さんは語る。