子供の「否定語」生かす教育を

小学校教諭・新城喬之さんトークイベント 沖縄県那覇市

出版記念トークイベントで語る新城喬之さん=5月11日、那覇市のジュンク堂書店那覇店

「無理!」「できない!」「あり得ない!」など、学校で子供が口にする「否定語」に着目し、教育に生かす方法を考えようと、那覇市内の小学校教諭・新城喬之さんがこのほど、『子どもの「否定語」から始まる算数授業』(明治図書)を出版した。これを記念し、このほど那覇市内でトークイベントが開かれた。新城さんは、子供たちの言葉の背後には論理的思考が隠されていると語った。(沖縄支局・川瀬裕也)

言葉の背後に論理的思考

那覇市内の公立小学校で教員として日々、子供たちと接する新城さんはトークイベントの冒頭、参加者に、「子供たちが勉強中に『否定語』を発した時、皆さんならどうしますか」と問い掛けた。会場から、「そんなことを言わずにやってみよう」「そんなことを言ってはいけないよ」と言葉を返すだろうとの意見が出ると、新城さんは「かつての自分もそうだった」と振り返り、「子供たちの否定的な言葉に対して、『否定』をしてしまっているのではないか」と指摘した。

しかしある時、「どうしてできないと思ったの?」と問い返すと、子供たちは「だってさ~」と、論理を語りだしたという。それまで、子供たちが否定語を発するのは、ただやる気がないからだと思っていた新城さんにとって、この体験が「目からうろこだった」と言い、子供たちの否定語は「算数の授業において、数学的な見方・考え方を深める上でとても重要なポイントとなることに気付いた」と語った。

その上で、否定語に隠された子供たちの論理を突き詰めていくことで、数学の授業に生かしていけるのではないかと考えた新城さんは独自に研究を開始。ある小学校で1年生の授業を担当した際、子供たちにサイコロを振らせて、上面と底面の数字を足して7になれば勝ちとなるゲームをさせた。

当然サイコロはどの面が出ても反対の面の数字を足すと7になるように設計されているため、少したつと何人かが「7以外できない」ことに気付き始めた。「教師としては、その授業のポイントに誰かが気付いた時点でその言葉を拾って次に進みたくなる」と前置きしつつ、「実はこの時点ではまだ、クラスの半分以下の子供しか気付いていない」と指摘。

ここで取り上げてしまうと多くの子供たちは残りの時間は置いてきぼりになってしまうため、別の角度からもヒントを与えると、多くの子供が「1と6、2と5、3と4どれを足しても全て7になる」という気付きを得てくれると語った。

新城さんは「否定語」を算数授業の軸とする理由について、著書の中で、①子供の「論理」が顕在化する②子供が「自分の立場」を持てる③子供の「価値観」が転換する④子供が「比較・関連・統合」の視点で考察する⑤子供が自ら「問い」を発展させる――とまとめている。

特にこの中の②について、新城さんは「子供たちは『これが正解だ』と教えるよりも、『正解じゃない』と教える方が伝わりやすい」と持論を展開。子供たちが先生の揚げ足を取りたがり、矛盾点を突く理由もここにあると強調。

算数が苦手な子供に、ストレートに「どうして」「なぜ」と聞き続けると、答えづらくなり、モチベーションの低下にもつながってしまうとして、逆に「どうして駄目なのか」「どうしてできないと思ったのか」を教師に対し否定・反論させることで、「どの子も自分の立場を持って授業に参加しやすくなる」と語る。

著書の見どころについて、参加者から質問を受けると、新城さんは、「とっぴな教材を使わなくても実践できることだ」と回答。自身も以前は、「教科書以外の面白い教材は何かないか」と常に模索していたが、近年それが逆に子供たちを混乱させている原因となっている点に気が付いたという。

「論理をどう伝えるか次第で、教科書をシンプルに使っても面白い授業ができることを知ってもらいたい」と呼び掛けた。

イベントに参加した小学校教諭の女性は、「子供たちの否定語の真意を知り、ハッとさせられた」と感想を述べ、「本で勉強して今後の授業に生かしていきたい」と語った。

子供の何気ない発言も、頭ごなしに否定することなく、教育のきっかけにしようと研究する新城さんの挑戦は続く。

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