未来世代における改善を模索 韓国教育財団60周年記念シンポ

「在日韓国人こそ韓国文化研究の担い手」

韓日の懸け橋になり得るTOPIK

韓国教育財団の60周年を記念したシンポジウムで、パネルセッションを行う参加者たち=11月22日午後、東京都千代田区(石井孝秀撮影)

子供たちへの奨学金など、在日韓国人の人々が教育支援のために設立した公益財団法人「韓国教育財団」は、日本政府から正式に認可を受けて今年で60周年を迎える。それを記念したシンポジウム「未来世代のための韓国教育財団の新たな飛翔」が先月22日、東京都内で開かれ、これまでの活動を振り返るとともに、今後の財団のあり方に関して意見を交わし合う場となった。

基調演説では、早稲田大学の李成市名誉教授が「グローバル時代の韓国学とは何か―在日の観点から見た韓国学の国際化」と題し、グローバル時代において財団が育成すべき人材について講演した。

李名誉教授は韓国の文学や歴史、思想などの研究分野が、国際的に認知されたものとなるためには、「わが国が第一というナショナリズムのスタンスでは限界がある。海外の人々に対して、韓国文化の持つ世界的価値を説明しなければいけないのに、(韓国国内の)内輪だけで分かったつもりでいる」と厳しく批判した。

そして、韓国文化の研究が不振に陥っている理由について、日本の植民地時代の影響を原因の一つに挙げつつ、その一方で李名誉教授は「国際的な高い評価を得ている映画制作と異なり、韓国研究の方面で成果を出せないのは、世界のオーディエンスを意識しているかいないかの違いだろう」と分析する。

また、客観的な世界の目を意識するという点で在日の存在は、「日本ではマイノリティーであり、韓国本国からも除外されたような立場だ。故に他者の目で韓国や日本を見る立場が養われている。在日こそが国際的な韓国文化の研究を進める上での担い手となり得る」と主張した。

続いて、財団のこれまでの歩みについて、長崎外国語大学の朴永奎副学長が研究報告を行った。現在、同財団が抱える課題について、①高齢化や在日4世・5世の増加など構成員の多様化②帰化・死亡などによる構成員の減少③財団運営委員の高齢化と若手の不足④寄付金減少による奨学事業の持続性の鈍化――などを説明し、「財団の置かれている現状は、楽観的とは言えない」と警鐘を鳴らした。

その上で、「財団のこれまでとこれから」をテーマに、複数の有識者によるパネルセッションも開かれ、未来に向けた改善策などに関する各自の考えが語られた。

名古屋大学大学院の松本麻人准教授は、自身の企画する韓国への海外演習で「韓国に好意を抱いていない学生が参加することもある。それでも高麗大学の学生と討論した後に、交流して帰国すると『親韓』に変わっていたこともあった」という体験談を紹介。「授業で小難しいことを話すより、若者同士の交流には勝てないと実感した。今後、韓国に関心のない在日の学生や韓国にルーツを持たない邦人学生も巻き込めるよう、気軽に参加できるような交流プログラムを財団でできれば」と期待を寄せた。

韓国語教育のユーチューバーとして活躍する、トリリンガルのトミさんは、財団が進める韓国語能力試験(TOPIK)について意見を述べた。年々受験者の増えているTOPIKの広報大使でもあるトミさんは、SNSでの発信やライブ配信などを通じた広報活動の強化によって、韓国語の学習意欲を持つ人々にTOPIKをより身近に感じられるようにしていくことなどを提案。

さらにTOPIK取得を目指す学習者の中には、留学・就職を視野に入れた受験者が多いことに着目し、「留学フェアや就職フェアを開催してキャリアアップの応援を行えば、TOPIK取得の社会的意義が上がる。財団が韓国語普及の中心になれば、韓国と日本の懸け橋の役割をより果たせる」と語った。

このほかパネルセッションでは、半世紀以上の時間が経過し、在日社会における多様化が進んだことで、「在日同胞子弟に対する教育支援」を掲げる財団の方針への提言もあった。

在日本大韓民国民団中央本部の徐順子文教局長は「私が担当している部署は次世代を対象にしており、60年前はおそらく韓国籍ばかりだった。でも今の時代、行事に参加する学生たちの半分が日本国籍だ。そして、それぞれの国籍に関係なく、互いをどう理解するか悩み苦しんでいる」と説明し、「今後は財団内でも、民族や国籍という捉え方をどう考えていくのかが焦点になるのではないか」と見解を述べた。

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