東大五月祭教育フォーラム「個別最適な学び」の核心に迫る

『正義論』の「公正で」が抜け落ちた

東京大学公共政策大学院教授 ROJE代表理事 鈴木 寛氏

鈴木 寛氏

NPO法人日本教育再興連盟(ROJE)主催の教育フォーラムが、3年ぶりに対面とユーチューブ上でZoomを使った形式で開催された。初等・中等教育の改革が実施される中、今年のフォーラムでは「『個別最適な学び』の核心に迫る~ひとりひとりに向き合う教育のこれから~」と題して行われた。最初にROJE代表理事・鈴木寛氏(東京大学公共政策大学院教授)があいさつした。(太田和宏)

認知特性に合わせた学びの実現を

DXを使うのは1on1充実のため

毎回毎回、その時々の教育上の最大のキーワード、近年では「教員の働き方改革」をテーマに開かれた。お忙しい各界の識者の方に、まったくのボランティアで集まってもらった。

五月祭の教育フォーラムは2006年から五月祭開催期間の日曜に開催し続けてきた。コロナで3年間対面ではなく、オンラインでの開催となった。今年はコロナも2類から5類に下がり、久しぶりに法文1号館25番教室(東大で最も歴史があり、規模の大きな教室)での開催となった。新しい教育についての議論が再開できることは主催者としても感無量だ。

「個別最適な学び」という概念が生まれたのは、林芳正文部科学大臣の下で、鈴木氏が文部科学大臣補佐官をしていた頃。Society5・0時代に向けた人材育成に係る大臣懇談会というのを開いた。同時に文科省内の若手タスクフォースと合同で行った。

そこで、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を展開、初めて「公正で個別最適な学び」という概念が生まれた。20世紀の工業社会では一律教育で良かったのかもしれないが、形式的な平等偏重から日本は脱却しなければならない時期に来ている。社会もそうだけれども、基本となる教育もそういう時代になっている。

「公正で個別最適な学び」という概念から、いつの間にか「公正で」が抜け落ちてしまった。文科省に出向いた時には「公正で」を復活させてくれと、申し出ている。「公正で」があると、ないとでは、致命的な違いになる。今回のシンポジウムにも、残念ながら抜けている。

大学で公共哲学と教育政策、医療政策をやっている。「公正で」は致命的に重要な言葉だ。主に倫理学、政治哲学の分野で功績を残したアメリカの哲学者ジョン・ボードリー・ロールズ(1921~2002年)の『正義論』では、「一番恵まれない人にとって最善な政策とかアクションを起こすことが正義だ、という当時としてはものすごく革新的で反響を呼んだ」。『正義論』700ページを圧縮して言えばそうなる。

「公正で個別最適な学び」という言葉が表に出て、最も賛成してくれると思っていた人から大きな反論が来た。話を聞いてみると、「個別最適はけしからん、格差が助長される」と言う。「公正で」が抜け落ちていると反論した。一番大変な人に社会の、さまざまな資源を投入するということだと反論した。

われわれが個別最適化しようとしていることの中に「意欲だとか」「学習の習熟度」とかも含まれているのだが、一番やりたかったことは「認知特性」の個別最適化だ。

偏差値の高い学生は視覚・文字優位の人が多い。一方、身体優位とか聴覚優位の人は、わが国の受験では浮かばれていない。だが、浮かばれていない人たちにも「ものすごいタレント性」を持った人がいっぱいいる。明治以来の日本型一斉授業、教科書では才能が開花できない。個々に合った「学び」というのは、めちゃくちゃ重要だ。

学校現場に行って「公正で個別最適な学び」「探究的学び」について話しているが、なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)を使うのかというと、1on1の時間を捻出するため。35人学級で一斉授業の中で個別最適授業を行うのは無理がある。だったら7割~8割の生徒は便利な勉強スマホアプリ、スタディサプリなどを使えば、残りの生徒に先生は力・時間を傾注することができる。自学自習してもらって、分からないことがあれば、1対1でリアルの先生に質問することが効果的な学習だ。

日本の教育制度は余力を持っている。校長が最近の最新の教育制度を勉強していない人が多い。知っていても、使いこなしていない人が多い。30年前は「標準」という考え方はなく「ちゃんと守れ」と言われて勤務してきた。30年間教育政策は自由度が増えているものの、アップデートがされていない。できる範囲が分かっていても、最後に踏み切れないのは保護者とマスコミとの対応だ。

“最大の敵”は学者、それから保護者、マスコミだ。学校でスタディサプリなどをさせていたら、先生サボっていると言われる。ちゃんと教えろよ、と言われる。校長研修などで言っているのは「7割~8割の子供が自学自習、スタディサプリなどをしていれば、2割~3割の子供に先生が濃密な時間を提供できる。自学自習できる子供はラッキーです。あなたの子供さんも、違う単元、科目になった時に濃密な授業を受けられるかもしれない」ときちんとメディアや保護者に伝えるのが管理職の校長や教育委員会の仕事だと言い伝えている。

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