「次世代につなげる道徳教育と授業の在り方
東京学芸大学教育学部心理学講座・松尾直博教授

東京学芸大学の教室で、対面とZoomを使ったオンラインとの“二刀流”で「次世代に向けた令和の道徳授業をつくる」をテーマに、道徳授業パワーアップセミナーが開かれた。東京学芸大学教育学部教育心理学講座の松尾直博教授が「次世代につなげる道徳教育と授業の在り方」と題して講話を行った。
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教育基本振興計画というのが6月に閣議決定されている。令和5~9年度にわたって取り組む方向性を示したもの。学校教育だけでなく、大学、成人などを含めて幅広いものになっている。

その内容を見ると、将来の予想がつかない、2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成とある。難しい社会課題の解決をイノベーションとつなげ、個々の生産性を向上させ、活力ある社会実現に向け、人材育成への投資が必要だという。そうした社会で活躍できる主体性、創造力、指導力、課題発見・解決力などをバランスよく兼ね備えた人材の育成が求められている。
また、多様な個人が幸せ・生きがいを感じると共に、地域や社会が幸せ・豊かさを感じられ、学校や地域でのつながり、協働性、利他性、自己肯定感、自己実現のバランスが取れ、日本型の調和と協調に基づくウェルビーイング(心身共に健康で幸福な状態のこと)の発信も目指している。
予測困難な時代の未来を予測することは意味がない。予測に一番適しているのは未来を創造していくことだという。40年代の教育・社会を若者・子供たちと話し合い、議論しながら創っていこうという考えだ。
VUCAの時代は一つの答えやどちらか一方の解決策に傾き・急ぐ必要はなく、相いれないような目標を、幾つかの側面として統合することで、「公平性と自由」「自律性と連帯」「効率性と民主的プロセス」「エコロジーと経済理論」などを二項対立で考えるのではなく、調和・融合させることができる能力が求められている。大人だけでなく、青年たち、子供たちを含めて考えていかないといけない問題だ。
これからの超スマート社会(Society5・0)は、社会全体が超情報社会になっていくであろう。ビッグデータやチャットGPTなどを利用して、経済の効率性だけで社会変革を推し進めると、社会的弱者や高齢者には耐え難い社会になってしまう。社会全体が幸福になるという一種のパラメーター(道徳的幸福感)のインプットが必要になってくる。
こども基本法というのは、ある意味で、大人に権限を預けて、危ないからやらない方がいいよ、守ってあげるからと「保護される権利」で「意見表明・社会参画の権利」を進めていくと危険な目に遭うことも増えてくる。これらの二つをどうバランスを取っていくのか、難しい問題も山積している。責任と権利を子供に託して、見守りながら、共有できる社会に進んでいければと思う。
(太田和宏)