東京学芸大学の永田繁雄特任教授が講話
東京学芸大学の教室で、対面とZoomを使ったオンラインとの“二刀流”で「次世代に向けた令和の道徳授業をつくる」をテーマに、道徳授業パワーアップセミナーが開かれた。東京学芸大学特任教授の永田繁雄氏が「子どもの心の活力を生む新たな道徳授業」と題して講話を行った。以下は講話の要旨。(太田和宏)
目線下げ多面的・多角的考察
評価は「認める」「受け止める」に重点
道徳授業において、指導の原理・原則を重んじ、学習の形や選択幅を狭め、指導過程を外さない授業方法を「狭める授業」と言う。また、授業では子供の意識を大事にし、ゴールへの向かい方が多様になり、多様なパターンやスタイルが生まれる。これを「広げる・攻め」の授業と言い、これからの道徳授業はこちらに軸足を置いたものにしていきたい。
そのためには、児童・生徒の良くなりたいという願いや心のエネルギーを信じ、上から目線にならず、人格を尊重し先生が目線を下げ、子供のメリットだと思う時には思いっきり切り込むことも必要だ。だが、急激に変化すると迷いも出てくるので、「授業1時間につき1チャレンジ」と抑えめにいくことが望ましい。
中央教育審議会答申には道徳教育に通じる「SDGs(持続可能な開発目標)」「Well|Being」(幸福感・幸福度)というキーワードがある。SDGsについて、私見だと断って「貧しい国も含めて、まず、生きていく環境が基本にあり、その上で、環境問題・生き方の問題に移るのだろう」これを推し進める中で道徳的観点・注目点が多く必要になってくる。
幸福感は一時的・瞬時・個人的なものではなく、持続的で内面に根差した幸福・満足のいく状態を言う、身体的・持続的・社会的なイメージが強いものだ。個人とか仲間だけでなく、視野を広く持って、幸福とは何かを考える授業に取り組みたい。
学習指導要領に織り込まれている趣旨を「目標」「内容」「方法」「教材」の観点から見逃さないことも重要だ。「目標」は諸価値の理解に基づき自己を見詰め、多面的・多角的に考え、生き方について考え、学習を通じて判断力・心情・実践意欲と態度を育てることだ。「内容」では児童・生徒が主体的に学ぶ内容であることを鮮明にした。「方法」では「主体的・対話的で深い学び」を取り上げ、自分事として主体的に学習、協働的な対話・議論で多様な考えに触れ、問題解決型の深い学びにつなげたい。
「教材」は教科書を中心にするのは、もちろんだが、書籍、郷土資料などから身近な出来事に触れ、強い関心を持ち、柔軟な発想を育てることも重要なポイントだ。以上の四つの角度から柔軟な形で表現されている趣旨を共有したときに教師の指導の可能性が開かれ、子供のさまざまな学習を開拓することができる。
道徳授業を進めるためには、先導者として問いを投げ掛けることも必要だが、伴走者、後援者としての立場、関わり方がより大切になってくる。伴走者の立場は子供に学びの主体であることを促し、環境を整備し、追究力・協働する学びを生かした問いを全体に投げ掛けることだ。
児童・生徒には多面的・多角的な見方をしながら、「納得解」へと進んでいってほしい。そして、自己意識を深め、自己の「道徳的価値観」を温めるように促したい。多面的というのは多くの人の見方などへ視点を変え、対比・深め・掘り下げることである。多角的というのは自己の意見を他と対立・議論して明確にすることだ。
学習指導要領では評価について「児童・生徒の学習状況や道徳性に関わる成長の様子を継続的に把握し指導に活かすよう努める必要がある。ただし、数値的な評価は行わない」としている。解説の中では、「一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているかに注目すること」としている。
多くの教師・教師の卵が苦労するのは評価の仕方だ。そのためには、道徳科ならではの譲れない評価の原則を大切にすること。子供の学習や成長の評価「ねらい」の達成度合いの直接的な評価ではない。評価文にも「~ができた」「~を分かっている」という表現は極力避けることだ。教師の基準で「ほめる」ことよりも、子供の中の基準として「みとめる・受け止める」ことに重点を置き、そして「はげます」といった評価を一層大切にすること。書くことや発表が苦手な子供が“頑張っている”ことを積極的に評価することが必要だ。