湯けむりフォーラム2022 教育分科会

イノベーションがもたらす始動人の育成と活躍

子供に必要な「やればできる」体験

教育系動画クリエーターの葉一氏

選択肢示し、自己決定にアドバイスを

群馬県で「湯けむりフォーラム2022」が開催された。“教育イノベーション”と題して、子供たちが「自ら考え、自ら取り組む力」を育む、学びの環境づくりを推進している。教育系動画クリエーターとして活動フィールドを広げる葉一(はいち)氏の講演内容を紹介する。

◇    ◇

2012年から『とある男が授業をしてみた』というユーチューブ・チャンネルを運営している、教育系動画クリエーターの葉一氏。投稿内容は、小学3年生から高校生向けの教科書レベルの授業動画で、ユーチューブにアップしている。基本的には“教科書一冊全部を授業動画にする”スタイルで、その他の動画や生放送も含め、全部で4200本ほどの動画を1人で制作してきた。普段は2人の子供の子育てをする父親だ。

動画投稿を通じて子供たちの「認知能力」を伸ばす活動をしている。例えば算数を学びたい子にとって、動画は学校や塾以外の新たな学びの選択肢になっている。「認知能力/非認知能力」という考え方を勉強している。「認知能力と非認知能力、どちらが大事?」と聞かれたら、「非認知能力」の方が大事なのではないかと答えている。

なぜ、「認知能力」を伸ばす学習動画を投稿しているかというと、「認知能力」の成長が「非認知能力」へ影響を与えるのではないかと思ったからだという。

ユーチューバーとして独立する前、3年間塾の講師として働いていた。当時担当していた生徒は、偏差値50を超えない子ばかり。学校で問題行動を起こす生徒もいて、保護者と共に学校へ謝罪に行ったこともあった。生徒にとっては「勉強」=「ダメなやつ、とレッテルを貼られる行為」でしかなく、義務教育で9年間関わっても勉強ができないことは、子供たちが劣等感を覚えたり、自信を失ったりするような大きな影響を与えていた。

塾で勉強をサポートすることで得られる「ある程度やればできるんだ」という体験は、子供たちの「認知能力」を伸ばすだけでなく、生徒が持つ魅力的な部分、例えばリーダーシップがあるとか、気配りができるといった「非認知能力」の部分も生き生きさせることに気が付いた。

経済的な事情で塾に行けない家庭や、地域に塾がなく、通えないという子供は多い。子供の意思で「勉強を頑張りたい」と思った時に、そうした問題を気にせず、親の承認を得なくても自由に教育機会を得ることができれば、多くの子供たちにとって「自信を持つことのサポート」につながるのではないかと考えた。ある程度の自信が付くと、自分を大事にすることができ、「非認知能力」の部分が輝くのではないか、と思っている。

ユーチューブ・チャンネルには186万人(2022年時点)の登録者がおり、日々子供たちとオンライン上でのやりとりもしている。勉強の相談も多いが、ユーチューブの中でこれまでの人生経験、ヤングケアラーだった過去や、中学時代に受けた、いじめの経験なども赤裸々に語る。

葉一氏は1985年3月11日、福岡県で生まれる。父親が金融関係の仕事をしており転勤族だった。福岡県から熊本県、埼玉県へと移り、小学校に就学する頃に群馬県邑楽郡明和村(現:明和町)へ引っ越した。2歳年下の知的障害と発達障害を持つ妹がおり、両親は共働きだったため土日は付きっきりで面倒を見なければならなかった。

所属していた体操部の練習を欠席する必要があった。しかし他の部員たちから「サボっている」と勘違いをされ陰口を言われるようになり、最終的には学年全体から悪口を言われるまでになった。これをきっかけに心に大きな傷を負い、自傷行為に及んだり自殺願望が芽生えたりすることも多々あった。「こんなやつらのせいで、休んでたまるか」という気持ちで乗り越えたことなども発信している。

今日のセッションで「子供たちに教育者/親ができることは、選択肢を見せること」という考え方があった。子供のためにレールを敷いてあげるのではなく、「こういうレールもあるよ」と示し、教えてあげることも必要だ。例えば子供がスポーツを習いたいと言った時、子供に「どんなスポーツを習いたいの?」と聞くと、大抵は野球かサッカーと答える。でも世の中にはもっと、いろんなスポーツがあるよね。「こういうスポーツもあるよ」と見せてあげることが重要で、必要なら子供の自己決定にアドバイスをしてあげることが大人の役割ではないかと思う。

    加えて、「成長実感」という言葉をよく使う。子供が努力したことで成長し、その成長が役立つ瞬間を見せてあげることも重要。自己決定させることは、放任とは違うことなので、その線引きについても教育系動画クリエーターとして発信していきたい。今後は保護者の方に対しての発信や子供たちが考えるためのヒントとなるような動画配信を、自分自身の役割として続けていきたいと思っている。

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