子供の「自ら考え、取り組む力」育む―湯けむりフォーラム2022 教育分科会

環境づくり推進する“教育イノベーション”

横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一氏

画面左上から時計回りに横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長、慶応義塾大学総合政策学部の中室牧子教授、教育系動画クリエーターの葉一(はいち)氏。手前は司会のNPO法人DNA代表理事の沼田翔二朗氏(写真は湯けむりフォーラムの画像から)
画面左上から時計回りに横浜創英中学・高等学校の工藤勇一校長、慶応義塾大学総合政策学部の中室牧子教授、教育系動画クリエーターの葉一(はいち)氏。手前は司会のNPO法人DNA代表理事の沼田翔二朗氏(写真は湯けむりフォーラムの画像から)

“学びの基本に戻る”に大転換

群馬県で開かれた「湯けむりフォーラム2022」がインターネット上でこのほど公開された(開催は昨年6月、年数等は当時)。“教育イノベーション”と題して、子供たちが「自ら考え、自ら取り組む力」を育む、学びの環境づくりを推進している。横浜創英中学・高等学校の校長である工藤勇一氏、慶応義塾大学総合政策学部教授の中室牧子氏、教育系動画クリエーター葉一(はいち)氏と活動フィールドの異なる3氏によるフォーラムを開いた。その内容を数回に分けて紹介する。(太田和宏)

工藤校長は3年前までは千代田区立麹町中学校で6年間校長を務めており、横浜創英中学・高等学校に赴任して3年。現在も両校で“学びの大転換”に取り組んでいる。「学校は何のためにあるのか?」という本質的な問いを追求し、「学校をあるべき姿に近づけるために、教育システムをどう変えていくか?」ということに取り組んでいる。

山形県鶴岡市生まれ。山形県立鶴岡南高等学校卒業。東京理科大学理学部応用数学科卒業。1984年より山形県飽海郡松山町(現・酒田市)で数学の中学教諭を5年務めた後、東京都の教員採用試験を受け直し、89年に台東区の中学校に赴任。その後、東京都や目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを歴任。

その後、2014年に千代田区立麹町中学校の校長に就任すると、子供の自律を重視した教育改革に取り組み、宿題廃止、定期テスト廃止、固定担任制廃止など、従来「当たり前」とされてきたことを覆した。宿題については「すでに分かっている生徒には無駄であり、分からない生徒には重荷である」として廃止した。

定期テストについては「ある時点での学力を切り取って評価することに意味はない」とした。固定担任制については「学級担任が生徒に対して責任を持ち過ぎてしまい、生徒の自律を妨げる」として、それぞれ廃止した理由を述べている。また、制服の改定や、私服を一部導入するなど数多くの改革に取り組んでいた。

麹町中学校、横浜創英中学・高等学校で行っていることは「学校運営を子供たちに任せること」と「学校の授業を能動的な授業に変えていくこと」にチャレンジしている。この考え方の基本は初任の山形県飽海郡松山町で教員を始めた時に、生徒会活動に関心を持っていた時から。学校運営を子供たちに任せるというのは、子供に決定権を移譲するということ。能動的な授業というのは、学年も学級もさまざまな子供たちが交ざり合って学ぶ仕組みをつくること。

こうした取り組みを学習指導要領に沿って進める。工藤校長は「優秀なスタッフの応援を受けながら難解なパズルを解いている。だいたい形になってきたので、2年半後には実践する様子(個別最適な学びと大学合格者数増など)をお見せできる」と今後の計画を語る。

現在の日本の「学校教育」というものは、明治維新からずっと続いてきた一律一斉授業というものが、機能していないし、最初からズレていたのかもしれないと工藤校長は考えている。本当は「教育って何のためにあるの?」を考えるとき、二つの視点が必要なのではないかと疑問を投げ掛ける。

一つは、教育には「全ての子供たちが自律して生きていけるようにする」役割がある。全ての子供たちにどんな可能性があるのか見つけ出し、寄り添い、支えていくことだ。もう一つは「社会を持続可能なものにし、民主的で平和的な国を造る」という役割があるのではないか。

このことに関しては、最近『子どもたちに民主主義を教えよう』という本に書いた。学びは自律型であるべきだと思っているが、民主主義を学ぶことだけでは自律型で学ぶことができない。世の中が持続可能で平和で民主的であるためには、教え込まなければいけない部分があると考えている。

その理由は、なぜヨーロッパが民主主義のイデオロギーを見つけることができたかというと、1万年、2万年と戦争を続けた結果、「このままでは人類が存続できない、持続可能な社会はできない」ということを身をもって知ったからだと思う。

いろんな人たちが生きる社会で争いや対立が起きた時、最上位の「平和で民主的な社会をつくろう」という部分では必ず握手しなければならない――その必要性を子供たちに教えられる唯一の存在が学校だと考えている。そのためには、社会の縮図である“学校運営”を子供たちに任せ、多様な人たちと生きることを覚えさせることが大切だ。

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