卒業生の研修成果の集大成 石川県立輪島漆芸技術研修所で作品展

人間国宝の指導を受けた力作が並ぶ

日本漆工協会の「漆工奨学賞」を受賞した藤原さんの作品金沢市のしいのき迎賓館

金沢市の石川県政記念しいのき迎賓館で、石川県立輪島漆芸技術研修所(輪島市)の卒業生による作品展が開かれた。同研修所は重要無形文化財保持者(人間国宝)の技術伝承者を養成する施設で、各作品は研修成果の集大成でもある。会場の1階ギャラリーAには各卒業生の洗練された力作が並び、来館者を魅了した。

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同研修所は2年制の特別研修課程と3年制の普通研修課程があり、特別研修課程では漆工品の制作に必要な基礎から作品づくりまでを幅広く学び、未経験者でも入所できる。一方、普通研修課程は基礎技術の修得者を対象に、榡地(そじ)、髹漆(きゅうしつ)、蒔絵(まきえ)、沈金(ちんきん)の各技法で認定を受けた人間国宝から直接指導を受ける。展示されているのは令和4年度卒業生の作品で、両課程合わせて7人が制作した23点が並べられた。各作品には担当した講師の寸評が添えられ、モチーフや作風、技法などが簡潔に解説されており、作品理解の手ほどきになっている。

各作品を見ていくと、普通研修課程の藤原愁(榡地科)さんの『杉造煤竹筬組戸飾棚(すぎづくり・すすだけ・おさぐみどかざりだな)』は、杉と欅(けやき)、それに神代欅(じんだいけやき)の特殊な木に、煤竹を用いて黒と生漆を摺(こす)って制作している。棚の扉に細く小さな竹ひごを使い、木目の美しさにもこだわっていて、制作に1年7カ月をかけたという。

「素材の特長を生かし竹の色も丹念に合せて、全体の空間も良くまとめた」との講師評で、「日本漆工協会」の「漆工奨学賞」を受賞している。この賞は今後の漆工界を担う学生を対象に贈呈されている。藤原さんは「自分の努力が認められ、とてもうれしい。卒業後は、自分にしか作れない作品を生み出す作家を目指します」と話している。

石井紘斗(髹漆科)さんの「青漆手箱(せいしつてばこ)『玉(ぎょく)』」は琉球王朝の玉冠を変形させて箱に落とし込んでいる。「桐木地の厚みと軽さが相まって鷹揚(おうよう)な佇まいが見事」と評価された。

平本歩(蒔絵科)さんの「蒔絵硯箱(すずりばこ)『秋雪』」は、金粉や朱色の漆などを使って紅葉の葉と雪の結晶を描き、秋から冬への移り変わりを美しく表現している。「ち密な描割りと繊細な研ぎ出し技法で、品格のある作品になっている」(講師評)。特に感銘を受けるのは、箱の表面に描かれた紅葉は、落ちたばかりで新鮮で鮮やかに表現されているが、それに比べて硯箱の中のそれは色あせて朽ちそうに見え、作者の時間の経過の細やかな配慮がリアリティーに描き出されている。

同課程で唯一の留学生の陳茜(沈金科)さんは中国から来ている。「沈金色紙箱『蒼』」は、薊(あざみ)を題材にして生命の繰り返しを図案に込めた。桐の中板に薄紅色の組み紐(ひも)が付く。彫りの後は金箔(きんぱく)のみで仕上げ、趣のある作品だ。卒業生は全員、輪島市に残り、今後も制作に励んでいくという。

一方、特別研修課程の卒業生の作品は3点展示されている。中嶋悠(専修科)さんの乾漆食籠(かんしつじきろう)「赤石」は、辺の長さの異なる変形五角形の作品で、朱の乾漆粉の研ぎ出し具合で赤身を帯びた石目地にしている。他の作品が黒漆の中で、これだけ赤身を帯び、色彩が際立っている。

宮井聖悟(同科)さんの「お櫃(おひつ)『蓮畑』」は、水面に屹立(きつりつ)する蓮の蕾(つぼみ)をモチーフにして、ふたの摘(つまみ)を中心に、身の部分に広がる蓮畑を力強い沈金の彫りで表現し、躍動感あふれる作品だ。また、山崎真綺(専修科)さんの「沈金菓子器『渡り』」は、南方より渡り来る浅葱斑(あさぎまだら)を題材に、綿密な取材と観察に基づく構成と技法で、はるばる大海を越えて日本にたどり着いたチョウの静かに躍動する生命を、沈金の技法を駆使して描いた。

なお、指導する講師陣は前史雄氏(沈金)=名誉所長はじめ、所長を小森邦博氏(髹漆)が務め、主任講師には川北良造氏(木工芸)、大西勲氏(髹漆)、中野孝一氏(蒔絵)、室瀬和美氏(蒔絵)ら9人の人間国宝が名を連ねている。これに作家や職人らその道の専門家が教え、きめ細かな指導が行き届いている。普通研修課程では実技の他、臨時主任講師による茶道、華道、絵画、工芸史、書道、製図、デザインなどの特別講義も組まれている。

(日下一彦)

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